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たまたま嫌な予感が当たっただけのそれで、ジュースからお菓子まで頂いてしまった竜也
祐里から祐里の両親がとても嬉しそうに、そして楽しそうに今日あった話を聞いていた

「竜ちゃん、本当にありがとね」
竜也はそう何度もお礼を言われて、
普通に困惑してしまう竜也だったが、横で祐里が「ごめんね」という感じで手を合わせてたのを見て思わず笑ってしまった
そして「そろそろ晩御飯だから」、と帰ることに
見送りなさいと祐里の父が言ったので、祐里はわざわざ外まで出てきていた

「ったく、余計なこと言うなって。大袈裟すぎるわ」
竜也は祐里をそう言いながら小突くと、右手を上げて帰路へ着いた

晩御飯→シャワーの定番コースを終え、竜也は部屋でABEMAでのプロレスタイム
石井うぜぇ、GTR塩なんじゃーなどと一人で騒ぎながら見ていると、唐突にチャイムが鳴った
ずいぶん遅い時間(8時半)に来客とか珍しい。祐里か? いや、今日はLINEすら来てないななどと竜也は思いつつプロレスに夢中
すると下から呼びがかかった

「竜、お客さんだよー」
母親に呼ばれ、ん、誰だろ。と竜也は思いつつ、闇の王頑張れーと言いながらブラウザを落としつつ居間へ降りる

「誰?」
竜也が言いつつ玄関へ向かうと、そこには見たことのないダンディズムな男性。え、どちら様ですか?と思って戸惑っていると、その後ろから「こんばんは」と舞の姿
ますます訳が分からなくなっている竜也に気づいたのか、その男性は竜也に対してまず頭を下げて来た

「夜分遅くにすみません。赤名舞の父です。今日は何でも娘を助けていただいたそうで」
あぁ、舞のお父さん...って、こっちも大袈裟に話が!と思い、竜也が舞のほうを見ると、夕方の祐里と同じように「ごめんね」と右手で謝ってるのが見えて内心苦笑い

「ほら、舞もちゃんとお礼言って」
舞の父がそう促すと、竜也は「いやいや、そんな大したことしてないんで。たまたまですから」とそれを辞退する
それで舞も「お父さん、もう何度もお礼言ってるってさっきも言ったじゃない」と笑いながら竜也に賛同する
まだ納得していない感じの舞の父だったが、やがて何か白い箱のようなものを舞から受け取るとそれを竜也に渡してきた

「お礼と言っては何ですが。ぜひ召し上がってください」
いや、まじで勘弁してと思いつつも、舞の父は真剣な様子なのでこちらは辞退することはできないようだった

竜也がとりあえず受け取ると、また深々と舞の父は頭を下げてきたので「いや、もうやめてください」と竜也はそれを止めた

「お父さん、もう帰ろ。竜也くん普通に困ってるからさ」
舞が助け船を出してくれたので、それで舞の父も納得したのか「それでは」と帰ることになった
見送りに竜也が外に出ると、立派な車が止まっていたので内心驚きを隠せない
うわ、高そ...思わず口に出そうになるのを堪え、頭を下げていると運転席の窓が開く
そして舞の父が、「今度遊びに来てください。晩御飯ご馳走しますよ。舞が喜びます」
そう言ってダンディに笑うと、舞が「お父さん、やめて」と思い切り小突いていた

車が去って行くのを見送り、竜也は”贈り物”を母に渡す
「あんた、ケーキでしょ。何やらかしたの」
夕飯の時話したじゃん、と思いつつ家族3人でおいしく召し上がることに

その最中、竜也は舞と祐里に「頼むから大袈裟にしないで」とLINEを送っていた
やがてすぐ祐里から”あんたは命の恩人じゃん。間違ったこと言ってないでしょ”と、なぜか絵文字も笑もなしのガチっぽい文を送ってくる。
その直後に舞からも返信。”竜也くんのお陰で明日を迎えられるよ”
その2人のLINEを見て竜也は確信した。あ、こいつらグルだなと

案の定だった
すぐに梨華や光からもLINEが来て、「よっ、ノストラダムス!」だの、「竜ちゃん、どうしてそういう予想は当たるのに競馬は当たらないの?」という悪質極まりないものが次々に届く
それでも河辺なら...河辺なら茶化さないでくれるはず...
竜也のその願いは、あっという間に打ち砕かれる
”竜くん、私もちゃんと守ってね”
はいはい、もう好きにして...竜也はそう思って、いつものSNSで直と遊んで気を紛らわせることに

毎度おなじみ画像レスを敢行してみると、直からも珍しくLINEが届く
うわ、まさか酒樹にも誰か言いやがったのか...?
はい、その通りでした
”おい杉浦。いい加減『酒樹、コレを買え』を当ててくれよ。そんな予言できるなら余裕だろw”
知ってた、という感じで竜也はスマホをベッドに投げた

めんどくさ、ゲームでもやるかと思いPCを起動していると着信音が鳴った
どうせまた祐里だろと思いつつスマホを開く
祐里ならそのまま無視しようと思っていたのだが、着信相手が舞だったのにちょっと驚いた

「ほいほい。どうした」
学校では見せない素の状態で思わず竜也が受けると、ふふと言う舞の声が聞こえた
「そうそう、ごちそうさま。おいしかったよ」
ケーキのお礼を忘れずに言うと、舞は「さっきはごめんね」と笑いながらそう言った
ん?と竜也が一瞬戸惑っているうちに、舞が続ける

「夕方の話ね。こういうことがあったんだよって晩御飯の時に話してたら、ちょうどその事故のことニュースでやってて。それでお礼に行くぞってなってね。私はいいからって止めたんだけど聞いてくれなくて」
へえ、俺の家で見てたチャンネルのニュースでは取り上げなかったのにと思いつつ、「「まあもうアレは忘れてくれ。マジで恥ずかしいわ」と全否定する
ホント、ただの”偶然だぞ”なのに、どうにも話が大きく伝わっている
いや、きっとみんなわかってて揶揄ってきてるのはわかるが、”両親”はその冗談が本気につながるから面倒なんだよなと内心思う

「そうそう。明日の夜って空いてる?」
舞からの唐突なお誘いだった。もちろん常に暇人な竜也にとってそれは愚問だったが、なんだろう。何か”悪寒”がしたので思わず聞いてみることに
「んと、何かあるん?」
軽く探りを入れてみると、舞はふふとまた笑っていた
「お父さんだけじゃなくてね、お母さんも本気にしちゃって。明日の夜、お礼を兼ねた歓迎会しようって話になっちゃってるの」

そう言われ、勘弁してくれCabron.と思わず内心呟いてしまう竜也だったが、どうやら断れる状況にはないように感じられた
そこで”助っ人”として祐里を呼ぶプランを提案してみると、「ごめん、竜也くんだけじゃないと無理だと思う。完全にそんな感じで準備しちゃってるんだよね」

最後の手段を封じられてしまった
とはいえ悪いことをされるわけではないので、覚悟を決めてお言葉に甘えることにしてみた

「いいよ。どうせ暇だしな。お邪魔させてもらうわ」
言ったものの、女子の家など祐里の家しか行ったことがない。しかもここ何年も祐里の部屋に入ったことはないわけで
これは自爆したかも、あぁ、今から緊張してきた。耳たぶが痛ぇーよ

「よかったぁ。詳しくはあとでLINEするから。じゃあまた明日学校でね」
それで舞からの電話は終わった

何か、今日はえらい疲れた気がすると竜也は思った
試験があったのが遠い昔に思えてしまうそれ。試験はまあそれなり、まあまあ...スタンダードな結果だと思うが、カラオケはまあ楽しかったんだが、その後ね

何となくな違和感がまさかの”予言”になってしまったがゆえに、大袈裟なお礼を2度も受ける羽目に
いや、ご馳走されるのはありがたいんですけどね。でもなんか違うでしょ、と

とはいえ柏で降りてたら...ドンピシャのタイミングで巻き込まれてたのかなと思うだけでゾッとしたので、すぐにそれは振り払った
あぁ怖い怖い

そして運命の日を迎える