竜也は公園から舞を送っている
「私が送ってたはずなのに」
そう言って笑う舞だったが、大事な人を夜に一人で帰すわけには行かないという強い意志の元実行していた
当然のようにすぐに舞の家に着いた
「それじゃ」と言って竜也が帰ろうとすると、舞が「あ、竜也くん明日って暇?」と聞いてくる
明日は日曜。普段ならお暇真っ盛りなのだが。。あ、明日は
「明日模試だわ。でも1時とかに終わるから、2時前には帰って来れるわ。終わったら連絡する」
竜也がそう言うと、舞はにっこりと微笑んで頷いている
何かしみじみと実感してきた。こんな可愛い子が彼女でいいのかなって。俺明日死ぬんじゃないかな
舞が家に入ろうとしたとき、今度は竜也が不意に呼び止める
「そうだった。俺さ、これから進藤の家に行ってくるから」
唐突な申し出に舞が困惑の表情を浮かべるが、竜也は小さく笑って頷いている
「昔約束してたんだよ。お互いに彼氏彼女が出来たら、ちゃんと報告することって」
竜也は照れ臭そうにそう言って頭を掻いた
電話やLINEじゃなく、ちゃんと向き合って伝えたい。竜也はそう考えていた
「わかった。ダメだよ、浮気したら。清田って呼ぶよ?」
舞はそう言って微笑みを浮かべると、手を振って家に入って行った
それで竜也は祐里の家へ向かう
10分かからないレベルなので、歩きながらLINEを打つ(歩きスマホは危険なので止めましょう。竜也の場合は交通量が少ない道路なので大丈夫です)
『今家の前にいるけど出て来れる? ちょっと話したい事あるんだけど』
そう送って家の前の道路で待機すると、すぐ既読になる
『どした? また会いたくなったのか?w』
祐里からすぐに返信が返ってきたが、竜也はあえて未読で待ってみる
何だろ、急に。祐里はそう思いつつ、慌てて準備をする。もしかして...思い、いつぞやのおもちゃの指輪をさりげなく左手の薬指に嵌めた
やがて祐里が家から出てきた。それを見て竜也は、よっという感じで右手を上げる
「どした?」
祐里は指輪が見えないようにさりげなく位置取りをしてそう聞くと、竜也はちょっと苦笑している
「竜がわざわざ出て来てって言うのなんていつ以来だろ。ラッパーがホームラン打つくらい珍しいね」
明らかに竜也の様子がいつもと違うのを察しつつ、祐里はあえていつも通りに振舞う。すると竜也は意を決したかのように、1度大きく息を吐いてから小さく頷いた
「....昔の約束、覚えてるか?」
竜也はそう言って遠い目をしていた
約束...あぁ、こいつやっと思い出したのかな...?
祐里はそう思いつつ、あえてとぼけてみる。「何のこと? 知らないよ」と
それを聞いて竜也は下を向いて小さく笑ったが、やがて真剣な表情に戻って祐里のほうを見た
「昔約束したじゃん。彼氏彼女が出来たら、ちゃんと報告することって。だから最初に進藤に伝えたくてな」
言って、竜也はとても照れ臭そうな表情を浮かべた
祐里は何が起きたのか一瞬わからなかった。え、こいつ何言ってるの...?
しかし竜也はハニカミながら続けた
「俺さ、彼女出来た。それを言いに来た」
言い終え、竜也は小さく笑って頭を掻いている
「あ...そうなんだ。よかったじゃん、おめでと」
祐里は必死に平静さを保って笑顔を作り、一方でズボンのポケットで指輪をすぐに外した
がくがく震えそうになる衝動を抑え、「で、相手は誰。私の知ってる人?」と訊いてみると、竜也はすぐに頷いた
「赤名だよ。今赤名の家でご馳走になった帰りでさ」
そういえば昨日舞からLINEが来て、竜也の好きなメニュー聞かれてたっけ。と今更にながら思う
祐里は素直に教えたのだったが、その結果がこれ。図らずも恋のキューピッドを演出してしまっていた
「進藤のお陰。そして”de 稜西”のお陰だわ。ホントありがとな」
呆然としている祐里に気づいていない様子で、竜也はそう言うといつものように右手を上げて帰って行った
わけもわからず祐里は手を振ってそれを見送ったが、やがて我に返るや否や凄い勢いで帰宅。そして自分の部屋へ駆け込んだ
ベッドに転がると、知らず知らずのうちに目から涙が溢れてくる
え、これって....
祐里は思わず光に電話をかけていた
やがてすぐ光はそれに出る
「何? よい子は勉強する時間でしょ」
光の声は笑っていたが、祐里はすぐに声が出てこなかった
それどころか嗚咽のようなものが聞こえてきたので、光は「どうしたの。なにがあったの?」と心配そうな声色に変わった
「...竜、舞ちゃんに取られちゃった」
祐里はそれだけ言うと涙が止まらなくなっていたが、それで光は全てを察した。なるほどね、と
それで光は息を一度大きく吐いた
勉強のほうが簡単じゃないのこれは、と内心思案
「正直何て言ったらいいのかわからないんだけどね。けど祐里、貴女はモテモテじゃない」
本当にこういう時何て言えばいいのか、光は全く分からなかった。というより私じゃなくて種ちゃんに相談しなさいと
頼ってくれるのは嬉しいけど、私じゃ何も力になれないわと光は内心首を振っていた
しばし沈黙が流れたが、やがて祐里の泣き声が収まって行ったのを感じて光は内心安堵していた
「もう竜って呼ぶのやめないとダメかー」
祐里はそう呟きつつ、竜から貰ったネックレスを外した。おもちゃの指輪と共に、それを”封印”すると光に「ごめんね、じゃあまた来週」といつもの声色に戻して電話を切る
ホント、これからどうしよ
祐里はそう思いつつ天を見上げると、また目から涙が溢れてくるのを感じた
あぁ、今日はもうダメだこれ。もう寝よ...
「祐里、早くお風呂に入っちゃいなさいよ」
下から声がかかるが祐里は返事をせずに布団にくるまっていた