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笹唐和信は、ある一人の女生徒が校舎から出てくるのを待ちわびていた

あの借りは必ず返す。やられたらやり返す、千倍返しだ!


あの借り

去年の5月末くらいの話
中学の時はプレイボーイで鳴らした笹唐
高校でも野球部に入り、自由な校風で知られる稜西高校は坊主頭じゃなくてもいいというわけで
より一層チャラさを増していた

そんな笹唐は、クラスのある少女に目をつけていた
まあ美少女の多いクラスではあるが、その中でもより一層目立つ風貌をした

髪を赤に染めた進藤祐里、その人だった

小柄な種崎梨華、そしてクールビューティな光とよくつるんでいる様子の祐里
あともう一人、背は俺より高い(174。やつは180くらいか)杉浦竜也とやたら仲良く話しているのは見かけていたが、あくまで友達らしい
そう風の噂で聞いた。まあ、どっちにしろ俺のほうがイケてるわけだし、あんな奴に負けるはずがない

見事なまでの自惚れ

ある日の放課後、笹唐は祐里に告白し
無碍もなく、あっさりと断られた。間髪入れずに

「ごめんね、私はもう予約済みだから」
笹唐には到底理解できないことを言って、ちょっとだけ神妙な様子を見せた後、祐里は笑って去っていった

それだけならただ一つの恥で済んだ話だったのだが

確か、その1週間後くらい
クラスでは祐里だけが欠席(忌引きだっけ。忘れた、どうでもいい)したその日にある事件があった

1時間目の授業を終えて休み時間になった直後、笹唐は唐突に言い放った

「なんだ、今日はあのビッチなお姉さんは欠席か?
祐里の席を見て、ニヤニヤしながらそう言ったのを受け、クラスは一瞬静寂に包まれた
そして笹唐は続ける

「なんなんだよ、あいつのあの髪の毛。誰もなんも言わないからってあれはないだろ、下品すぎるて反吐が出るわ」

言い終わるが前に、離れた席にいた竜也(まあ見事なまでに端から端)は机をどんと大きな音で叩くと、
普段から絶対に見せたことのない鬼の形相で笹唐のほうへ向かおうとし

直後、すぐ近くにいた巨漢岡田倶之と、これまたガタイのいい高宮裕太郎にストップをかけられた

「やめとけ。女をバカにするやつには天罰が下る」
岡田が言うと、裕太郎も頷いて続ける
「杉浦ちゃん、落ち着け。あんな奴に構うだけ無駄だよ、これマジ」

それでも怒りは収まりきらない竜也だったが、ガタイのいい二人に囲まれては動けない
そうしているうちにようやく冷静さを取り戻しつつあった

竜也が来ないのを見て、笹唐はやれやれという感じで大仰に両手を広げた
「なんだなんだ、ビッチのお友達はヘタレなのか?」

それでさすがに止める気が失せた岡田と裕太郎。竜也に「やれ。俺らも加勢する」と言おうとした矢先

クラスに響き渡る
「ヴァー」
という雄叫び。そして、ぐしゃっという鈍い音とともにその場に崩れ落ちる笹唐

その横には、怒りに震えてかちあげ式ラリアートを喰らわしてしまった吉田八郎だった
倒れこんだ笹唐を持ち上げ、追撃の「カルマ」を喰らわせようとした八郎だったが、さすがに慌てて駆け寄った後藤がそれを制した

「次同じこと言ったら、今度は俺がおまえを倒す」
そう言い残すと、後藤は笹唐の机と椅子を元に戻して八郎と共に席に戻った

一瞬呆気に取られた竜也だったが、とりあえず頭を下げると八郎と後藤は互いに手を挙げてそれを制した
二人ともにやっと笑って、いい仕事をした的な雰囲気

それで岡田と裕太郎も席に戻り、竜也も席に戻った
心配そうにその様子を見ていた光と梨華も、それでようやく安堵した

それ以降、笹唐は完全にクラスで孤立した
完全自業自得

しかし、笹唐はあくまで進藤祐里のせい
そう捉えていた

あいつさえ、俺の告白を受け入れていればこんなことにならなかった


そして、今日ついに千載一遇のチャンスが訪れた

”プログラム”
まさに治外法権。何をやってもノープロブレム

となれば、やることは一つ

俺に恥をかかせた進藤祐里を襲い、殺す

男笹唐和信、一世一代の晴れ舞台
名誉返上、汚名挽回の大チャンス到来だった

幸い、俺の次はあのクソビッチ
ちょっと待って、そのまま連れ去って”熱盛”

支給されたリュックを漁ると、その笹唐の気持ちを見透かしたかのような素晴らしい武器
「バイブレーター」が入っていたので、一人卑猥な笑顔を浮かべた
裕太郎の卑猥な笑顔と違って、恐ろしく品がない超下品なアレ

間もなく、祐里が駆け足で出てきた

それを物陰で待ち構える笹唐に気づき、祐里は逃げようとしたが笹唐にそれを阻まれた

「何? あんたに用はないんだけど」
祐里が冷たく言い放すと、笹唐は一瞬でその距離を詰める

そう、鬼畜で変態ではあるが運動神経は抜群な笹唐
逆に運動神経皆無な祐里(バッティングセンターで20球連続空振りしたのは、さすがに笑えなかった)

一瞬の間があった

祐里は絶対に目線を逸らさないようにして、様子を伺う感じ
一方の笹唐も、いつ襲い掛かろうかとタイミングを見計らう

「進藤。ちょっと下がれ」
声が聞こえたので、祐里は歩を後ろに進めた

直後、ダッシュ一番駆け込んできた竜也は笹唐の腕を取ると、そのままの勢いで逆上がりしてからの裏DDT
”コリエンド式デスティーノ”を炸裂させた

もんどりうって芝生に倒れこむ笹唐を尻目に、素早く竜也は起き上がると祐里の手を引いて走り出した
「行くぞ。ここはノートランキーロだ」



高宮裕太郎が校舎から出て、すぐに目にしたものは草むらでもんどりうって倒れこんでいる笹唐和信だった
どうやら失神でもしてるらしい。ズボンのポケットからはバイブレーターが覗いている

それを見て、裕太郎はニヤッと笑うと
リュックから拳銃を取り出し、迷わずに笹唐の頭に向けて発射した

「女をバカにするやつは許さない。これマジ」


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