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「たーねーき」

不意に声をかけられ、梨華は慌ててポケットから拳銃を取り出すと声のした方向に向けた

するとそこに立っていたのは
見慣れた爽やかイケメン、酒樹直だったので梨華はとても驚いた
直はおどけた様子で、片手に何かを持ちながら両手を上げていた

「すまん、脅かしたな。撃たないでくれ」
直が笑いながら言うと、梨華は安堵して腰が抜けたかのようにしゃがみながら笑った

「やめてよ。つか、酒樹までそう呼ぶのやめて」

"タネキ”、杉浦竜也がふざけてそう呼んでいるのは別に嫌ではなかった
ただ最初に、「誰がおまえの姉じゃー」と返した時のリアクション、それがとても面白かったので続けているだけ。ただそれだけ
つかね、酒樹に水木、タネキじゃややこしいでしょ。エンセリオ、マジで
まあ多分、それもわかってて言ってるんだろうけど

「迎えに来た。あいつら。。杉浦と進藤のとこに行こうぜ」
直がそう言ったので、梨華はまたポカーンとしてしまった
何言ってるの、この人。的な

「俺に支給されたの、この簡易レーザー。探知機でさ、近くに誰がいるとかわかるんだよ。まあホントに近くじゃないと、
誰がいるかまではわからないんだけどな。それでも危険を予知出来たりできるから」
言って、直はふぅと息をついた。梨華がよく見ると、直の額にはうっすらと汗が滲んできている

「あいつらと合流しよう。それで、その後水木と河辺は俺が探す。6人でこの危機を乗り切ろう」

梨華は何で?と思う反面、とても嬉しくも思った。うん、できることならそれは合流したい
けど。。私が一緒じゃ足手纏いにしかならない

目の前にいる酒樹直はまあ、足が速い。サッカー部どころか、きっと校内一の走力だろう
去年の体育祭のリレーでは本当に驚かされた
足だけは速いと言っていた、笹唐がやらかして絶望的だった差を直が一人でぶち抜いただけじゃなく、最後は流してゴールする始末
それはもう圧巻だった。真っ先に竜也といつもの右拳を合わせるポーズをしていたのには苦笑したけれど

「大丈夫。なーんとなくだが、杉浦と進藤のいる場所は見当ついてるんだ」
実は根拠はなかった。ただ、あいつなら。あいつらなら、ここにいそう。ただそれだけ
そもそも2人でいるとは限らないのだが、きっとあいつらは一緒にいる。これは直の直感。
そして梨華も、あの二人は絶対一緒にいるだろうなーと思っていた

「まあ、俺を信用してくれってのは無理だよな。ただな、これだけは聞いてほしい」
直が言ったので、梨華は黙って直の目を見て頷いた

直は梨華からちょっと距離を置いて座り、続けた
「俺も一人だと心細くてな」
直がニヤッと笑った。思わぬ返答に梨華は一瞬目を丸くし、そして釣られて笑った

「私も同じ。やっぱり怖いよ」と
言って、梨華が「お願いします」と右手を差し出すと直は首を振った

え?とキョトンとする梨華に対し、直は笑って右拳を握って天に翳す
それで梨華はまた笑った

「じゃあ行きますか」
直が言ったので、梨華は頷いて立ち上がった
その時一瞬クラっとしたが、直にはばれていないようだった。危ない、危ない

「そいや、酒樹は私を見つけるまでに誰かを見かけた?」
梨華が質問をぶつけると、直はちょっと考えた様子を見せ、そして答えた

「遠目でだからはっきりとはわかんなかったけど、たぶん高宮だな。女2人くらい連れてたように見えた
あとは西日暮里に保諸か、近づかないようにしたから向こうは気づいてなかったのは幸いだったな。で、種崎は?」

呼び方が変わっていた。ここで続けないのが竜也と直の違うところ
杉浦ならことあるごとに”タネキ”と呼んでくるから

「私は誰も見てないよ。あ、笹唐が死んでたのだけは見た」
ちょっと語尾が震えてしまった。さすがに「死」というのを言うのは神経に響く

「マジか。。」
直は絶句していた
そう、先ほど校舎で起きていただけじゃなく、「生徒同士」でも殺し合いがスタートしている事実
これを改めて思い知らされたのはさすがに効いたようだ

「まさか。。な」
直は遠くを見て小さく呟いた。梨華は、その「まさか」の意味をすぐに理解できた
そう、笹唐と因縁悪しからずな人物に思い当たるのだから

けど

「酒樹、杉浦が人を殺ると思う?」
真顔で聞いた。いつもの写真を撮るときの梨華の表情のそれ
いつからか知らないけど、写真を撮るときはいつも真顔で表情が死んでしまう。直す気はないからいいんだけれど

「思わない。思わないけど。。なぁ」
直は頭を掻いた。まあいちいち絵になる男である。その辺の女子なら完全、惚れてまうやろー状態かも知れない
私? 私は2次元のほうが好きだから

「それくらいで揺らぐなら、合流しないほうがいいと思うよ」
梨華が冷たく言い放ったので、直ははっとした表情を浮かべた
それを見て、梨華は続ける

「私は笹唐の死体を見た。そうね、祐里と杉浦と出席番号がとても近い。もしかしたら何かやり合ったかもしれないね
けど、あいつ。杉浦が人を殺すとは絶対に思わない。まして一緒に祐里がいたとして、あいつがそんなことできると思う?」

一気に早口で言ってしまった。恥ずかしい、ちょっと喉が渇いた。。なんて梨華が一人で考えていると、直はちょっとだけ思案し
そして頷いた

「種崎の言う通りだ。やつがそんなことするわけないわ。ごめん、ちょっと言い方悪いけどいいか?」
直がそう言うと、梨華は小さく頷いた

「変な話するぞ。笹唐の横に、うん。進藤の死体があったなら犯人は間違いなく杉浦だ」
言って、やっぱりなんか変だと思ったのだろう。直はまた頭を掻いた。せっかくのヘアースタイルがちょっと乱れてきている

「笹唐だけのなら、絶対に違うわ」
言うと、リュックからペットボトルを取り出し梨華にポーンと手渡しした

梨華がちょっと驚きながら受け取ると、直は小さく笑った
「それ飲んだら出発しよう。もちろん、Tranquilo.でな」

「Grasious.Amigo.」
梨華がそう返したので、二人はまた顔を見合わせて笑った


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