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「俺、死にたくねンだわ。早く助けに来てくれ」
”了解しました”

保諸佳がどこかに電話をし、短いやり取りでそれは終わった

ルール上では電話は使えないことになっているが、保諸が持っているのは「皇室」との直接繋がる特別なやつ
保諸が睨んだとおり、それはあっさり繋がったので内心安堵した

保諸佳、「皇室」のお嬢様のフィアンセとして世間を賑わせた男
なぜそんな男がこの地方の高校生にいるのか、それはまあいろんな事情がある

そもそもどうやってフィアンセにまで成り上がったのか
それは千載一遇のチャンスを逃さなかった、だけに過ぎない

まだ保諸が東京在住だった中学3年の時、これは本当に偶然だったのだが学習塾でお嬢様を見る機会があった
もちろんSPなどがたくさんついており、その時は接触する場面はなかったのだが
「ほーん、これはチャンスあるンだわ」

そしてそのチャンスは、すぐに訪れた
お嬢様のすぐ近くに陣取った保諸は、これはもう古典的な手口・消しゴムを図ったようにお嬢様の位置まで転がした
SPが拾う前に、お嬢様がそれを保諸に手渡しをしてしまった

「ありがとナス」
保諸が笑みを浮かべてそれを受け取ると、お嬢様は期待通り何のことかわからない反応を示した
保諸の作戦。世間を知らないお嬢様に、「庶民」として”攻撃”を仕掛けるというものだった

明らかに興味を示したのに気をよくした保諸は、それからもちょくちょくちょっかいを出し
SPの制止や戸惑いを尻目に..いつの間にか、お友達にまでのし上がり

それからは早かった
SPつきのデートを2回(水族館と動物園に行っただけ。何もしてねンだわ)しただけだが、もうその日の夜に
お嬢様は”陛下”にこう告げたらしい
「私、あの人と結婚します」と

「してやったり」な保諸だったが、それをどこからか嗅ぎつけた週刊誌たちのせいでひどい目に遭った
まあもともと母親がアレなせいもあり、いろいろ(うるせンだわ)よろしくない家庭環境にあったこと
それはまあ、とても未成年者に対するバッシングとは言えない素晴らしいものだった

「とりあえず高校を卒業しなさい、話はそれからでも遅くない。ほとぼりが冷めるまで、落ち着いた環境で過ごすといい」
”大臣”にそう言われ、保諸が入学したのがこの稜西だったというだけのお話

「まあせいぜい頑張ればいい。俺はさっさとここから逃げるンだわ」
保諸は不敵に笑った
このままここで待ってれば、他の生徒を尻目にこのくだらないゲームからおさらばできる
そう考えただけで笑いを抑えきれない
まさに、「笑いが止まらないNE」

思い返せば、クラスに友人などはいなかった
そらそうよ。保諸は周りを見下していたし、他の生徒も「渦中の人」と関わろうとするはずがないわけで

「けど、あれはいい女だったな。河辺だっけ」
保諸の頭に一人の女生徒の顔が浮かんでいた

「つまんねンだわ」
去年の文化祭
そう思いつつ、一人ぶらぶらと体育館で時間を過ごしていた保諸

ようやくそろそろ終わるンだわ、と思ったときに急に始まったのがLOS INGOBERNABLES de 稜西の演奏

「大した上手くねンだわ」
思いつつ、運が悪いことに前に陣取っていた保諸
そんな時、前方で一人目を輝かせてその演奏に聴き入っていたのが、河辺夏未だった

客観的に聴いてもそこまでクオリティが高いとは思えないし、歌声だってそんなにいわけではない
なのになンでなんだわ。それを考えると、保諸は夜も10時間くらいしか眠れなくなった
まあ3日で忘れたけど

もっと早く、河辺夏未を知っていたなら運命は違ったのかもしれない
一目惚れ、それに近い感覚ではあった

けど、もう遅かった
俺は「皇室」の一門なンだわ。成り上がって、「陛下」にもなってしまう逸材なンだわ


そして間もなく、お迎えのヘリの音が遠くから聞こえて来た
「おいでなすった。じゃあずらかるンだわ」

保諸が空を見上げると、やがてヘリがどんどん近づいてきている

「ここなンだわ。早く」
思い、手を上げかけ

保諸は驚愕の表情に変わった

ヘリの下が開き、機関銃がセットされていたのだからそれも当然だ

「おい、やめr」
逃げる間もなく、一斉放射によって保諸はあっけなく絶命した
それを確認するまでもなく、ヘリは何事もなかったかのように戻っていった

ここからは風の噂

なぜこの稜西高校で、18年ぶりにプログラムが開催されたのかということについて
それは合法的に、この「フィアンセ」を抹殺することがメインの一つだったという話が上がったが、その答えは誰も知らない
そう、政府関係者と「皇室」関係者を除いては


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