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井場安理は一人、のんきにソシャゲに勤しんでいた

電話もインターネットもできないこのプログラムの中、なぜかソシャゲはプレイ可能らしい
(超野がガルパンソシャゲをやりたいがために、回線を弄っていたのは誰も知らない)

夕姫ちゃん、千代ちゃん、君たちは悪いやつだ。僕にいくら貢がせれば気が済むんだ
など言いつつ、スマホの画面を一人で見つめる井場

彼は三次元だけじゃなく、二次元でも「巨乳評論家」だったのだ
でかいのは正義、そう思っていた
ウマ娘なる作品を見て、「どうしてウシ娘じゃないんだ」と一人激高したこともあるナイスガイ

そんな井場だったが、同じソシャゲをやっていたある生徒のことがふと頭によぎった


ある体育の授業、ソフトボールの時
井場はセカンドを守っていたのだが、二塁打をかっ飛ばした杉浦竜也に何気なく話しかけていた
「ナイスバッチ」、と

帽子に手をやり小さく一礼する竜也に対し、井場は続けた
「杉浦はソシャゲだけじゃなく、ソフトボールでもゴールドトロフィー取るのかい?」

同じソシャゲをやっていると知っているからの、ちょっとした冗談
思わず吹き出した杉浦に対して、ちょっと気をよくした井場はさらに続けた。続けてしまった
「けど君は、あんな薄い子と一緒にいて楽しいのかね? やっぱり、もっと豊満な子とじゃないと面白くないだろう」

その時杉浦は一切反応しなかったが、攻守交替の後に「Cabron.」と冷たく言い放っていき
その後に酒樹直が寄って来て一言だけ「最っ低ー(ミラノさんism)」とだけ呟いて、立ち去って行ったのは印象的だった
それから一週間ぐらいは、杉浦も酒樹も僕と口を聞いてくれなかったな、と

本当のことを言っただけなのに、それは納得できない。木戸修の顔に毒霧噴いたわけでもないのに!


体育の授業といえば、バスケの時の話は傑作だった

高宮裕太郎と同じチームだったのだが、裕太郎が思わずボソッと井場に言った一言は強烈だった

「何がバスケだ、おい。バスケなんてオカマのスポーツだよ、俺が好きなのはバスケットボールみてぇなオッパイのネーチャンだけだよ!もちろん
夜はベッドの上でスラムダンク!…これマジ」

裕太郎は真顔で言ったのだが、井場は何度もそれに頷いて答えた
「わかる、わかる。君は素晴らしい」と

とはいえ、そこまで井場と裕太郎は接点があったわけではない
基本的にソシャゲなどを好む井場に対し、レスリング部の猛者でもあり、常に女を侍らせている裕太郎
共通項といえば、「巨乳」をこよなく愛すということくらいであった

そもそも、井場がどうしてそこまで巨乳好きなのか、それは本人もよくわかっていない
きっと人間の本能としての行動なのだ、そう井場は思っていた


閑話休題、このクソみたいなプログラムからどうすれば僕は生き残れるのか
支給された武器は”手榴弾”3個
これだけでは、殺し合いをするには明らかに不足している

頭脳はまあ、それなり。身体能力が特段優れているわけでもない
そして支給の武器はしょぼい
誰かに帰省するにしても、そこまで信頼できるやつがいるわけでもない


八方ふさがりだった


そんな時、井場の脳裏にある一言がよぎった
「もしかしたら、今日がこの世で最後のゲームになるかも知れない。どうせ地獄に落ちるなら、その前に
一度天国を見せてくれ」

そうだ、僕はまだ天国を見ていない
井場は思った。一度、裕太郎に連れられて"おっパブ”に行ったときは、まあ天国の片鱗を味わえた気はしたけれども
「涅槃でおっパブ、これマジ」

となればすることは一つ
"HEAVEN"に行くために、何としてでも生き残ろう
ひたすら逃げ延びて、誰とも関わらずに時間を稼ぐ。そして最後の2人になった時に、手榴弾3発をプレゼントすれば僕の勝ちだ

生き残ると豪華賞品が貰えて、今後の生活が保障されると聞いた
”課金し放題”じゃん、井場は不敵に笑んだ
何がゴールドトロフィーだ、次は僕がプラチナだぞ、と
あぁ、そもそも杉浦。君はもう次回は参加できないね
何だったら、君のアカウントも僕が引き継いであげよう

そんな時だった
ふと井場は、気配を感じて一歩後ろに下がった
すると目前には、ニコニコとほほ笑んながら振り下ろした豊田愛季の右腕が通過していた
金属なのか、鋼鉄製なのかわからない。物騒すぎる凶器をつけたその右腕


「怖ぇー」
思う間もなく、追撃の一打が無事井場の頭部に直撃した
「痛ぇーょー」
これもまた思う間もなく、さらにもう一撃。そしてもう一撃


井場はあっという間に絶命していた


「へいじゅー、どめぎばぁ」
何事もなかったかのように、また豊田愛季はこの場を立ち去って行った
その左手には、しっかりと手榴弾3つが握られていた



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