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テーブルの上には、今度は食事が並べられていっている
そして各自、思い思いに飲み物も

「さすがに乾杯するわけにはねぇ」
席に着いた光は思わず苦笑いしていた。そして、梨華と祐里がキッチンから竜也と直を呼んだ
そして竜也と直が料理を運び終え、5人がそれぞれ席に着いた

「ちょっとした満漢全席じゃねえかよ」
竜也が思わず言ったので、直も頷いた。「すげえな、マジで」

とはいえ並んでいたのは庶民的な料理ばかり。麻婆豆腐、餃子、そして炒飯、おまけにスープ
中華専門店ですね
最初は竜也がラーメンも要求してたのだが、祐里が「あんたすぐお腹壊すからダメ」とあっさり却下
冷蔵庫にあった材料を使って、中華三昧となったわけだ

竜也がスープを飲んで、まず一言「女将を呼べぃ!」と言った瞬間、祐里はすかさず竜也の頭を叩いた
それを見て笑いつつ、直も餃子を一口食べ
「なんちゅうもんを食わせてくれたんや! なんちゅうもんを...」
と言って、泣き真似をし始める始末

もう突っ込むのが面倒になったのか、梨華と光は二人で顔を見合わせつつ、普通に食事をしている

「あ、せや」
唐突に竜也は立ち上がると、戸棚を漁り始めた
そしてすぐに戻ってきて、「ほい、タネキの分」と何かの瓶を置いた

”養命酒”、梨華のためにしっかりと準備しておいた(偶然家にあっただけ)

「だから、私はあんたの姉貴じゃねぇぇ」
梨華は笑っていた。それを見て、みんな笑っている

そう、これはいつもの光景。ただ違うのは、全員に首輪がある。ただそれだけ

「さて、じゃあ状況教えてくれる?」
光が直に聞いた。直は、ポケットから何か小さな機械を取り出してみんなに見せる
「これ。簡易レーザー。これでお前らの居場所を探り当てた。近くに来るまでは勘だったが」
直が言うと、梨華も頷きながら続けた
「勘っていうけど、ほぼ一直線にこの辺りまで来たのよ。まさにDESTINOよね」

梨華も言うようになったなぁ、と竜也は一人内心で笑っていた

「けど驚いた。杉浦と進藤が一緒にいるのは読めたが、まさか水木まで合流済みだとはな」
直が言うと、光はニヤッと笑った
「この2人はわかりやすいからね。けど、ほんとよかった。あとは夏未だけ。何とか合流したいんだけど」

やがて、食事も終わった
「2人に作らせたから、洗い物は私が」
と言って、光はキッチンへ向かった

食後なのに薬を飲んでいない梨華に気づいた竜也は、
「薬、飲まなくていいのか?」と周囲にばれないようにこっそり聞いた
梨華は小さく「大丈夫、ありがと」と返したので、竜也は小さく頷いた

そう、こういうことにだけは妙に勘が働くんだよね。こいつは
梨華は内心苦笑した。やっぱり失敗だったかな、余計な心配かけるだけかも知れない

しかしその当の本人、竜也は直と一緒にどこからか取り出した雑誌を二人で見入っている
梨華と祐里がそれを覗くと、競馬雑誌だったので呆れて互いに目を合わせて苦笑いした

ややしばらくし、光もまた居間に戻ってきた
やがて、おもむろに直が立ち上がると
「じゃあ、俺そろそろ行くわ。河辺探さないとだろ」

急な申し出に驚いた4人だったが、光が「ちょっと待って。直ちゃん、頼みがあるんだ」
そう言って、地図を手渡しした

ん?という感じで直が受け取ると、光は直にそっと耳打ちした
あぁ、わかった。言って直は頷き、やがて出発をしようとした瞬間

竜也がそれを制した。「ちょっと待った」、と
ちょっと待ったコール、ではない。普通に制止したので、直はちょっと驚いた表情

「酒樹はさっきここに来たばかりじゃん。俺が行く。ちょっとは俺に見せ場作らせてくれよ」
竜也がそう言ったので、他の4人は戸惑いの表情を隠せない。特に祐里の表情は一気に曇っていった

「あのね」
ちょっと呆れた感じで、笑いながら光が口を開いた
「竜ちゃんには悪いけど、私は直ちゃんにお願いしたい。あなた方向音痴じゃない。そして体力もない
そしてせっかち。。うん、私が頼みたいことも考えると、竜ちゃんじゃ無理。悪いんだけど、直ちゃんお願い」

容赦なかった。竜也が言葉を返せないでいると、直は竜也の右肩をポンと叩いた
「心配ないさー」
いきなり大西ライオンのマネをしてみせる

つか、お前キャラ違うな。本当に大丈夫か?などと竜也が思っていると、直はやがて小さく頷いた
「俺が斥候務めるのがベストだからさ。杉浦はここで3人のお姫様を守っててくれ」
そこまで言って、いたずらっぽく笑った
「襲うのは一人までにしとけよ、Cabron.」

「大丈夫、そんな度胸こいつにはないって」
祐里がすぐに続けたので、全員は目を合わせて笑った

その後はわずかな沈黙があった

ややしばらくして、直が再び立ち上がった
「じゃあ行ってくる」、と

玄関前まで全員で見送りに行き、直が行こうとした瞬間に竜也は直の肩を叩いた
直がそれで振り返ると、竜也は言った
「諦めなければ夢は叶うって言葉は俺は嫌いだけどさ。どんな状況でも諦めなければきっと希望が見える。
光は見えるはずだ。だから頼む、絶対に戻って来い。河辺も一緒に連れてきて、な」

竜也は言うと、右拳で左胸を2度ポンと叩いて、そして大きく天に掲げた

「ったく。カッコつけちゃって」
祐里は笑うと、同じように右拳を重ねた

「祐里を襲うなら夜にしなさい」
梨華も笑いながら、同じように続いた

「直ちゃん。あんまり暗くなる前に戻ってくるのよって、なんかお母さんみたいね」
光もちらっと笑って、それに続いた

「おいしいとこだけ持っていきやがって」
直も笑って同じように拳を合わせた

「ご武運を」
梨華がふざけた口調で言った
直はそれに右手を挙げて答え、そして何かを思い出したかのように祐里を呼んだ
「一つ聞いておきたいことあるんだけど、ちょっといい?」

ん?と祐里が近寄ると、直はそっと耳打ちした
「前言ってた予約済みの件、どうなった?」
聞いて、祐里はにっこりと微笑んだ

「あれね。ようやく売れました。売約済みです」
「よかった。安心した」

直は頷くと、改めて右拳を天に掲げて出発していった



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