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夢を見ていた

いつの頃の姿だろう
目の前には幼い竜也がいて、泣いている祐里にポケットから取り出した
「祐里ちゃん、これあげるから泣くのやめて」

竜也の手元には、小さなおもちゃの指輪があった
「何これ。おもちゃじゃない」
祐里の内心とは裏腹に冷たい言葉が出たが、竜也は笑って頷いていた

「大きくなったら。。指輪と。。。そしたら僕と。。。」
「わかった。待ってるから。ずっと待ってるから」


懐かしい夢だった
というより、いつの間に寝てたんだろう。と祐里は思った

時計を見ると、午後3時34分。1時間くらいは寝ていたのだろうか
懐かしくて、そしてちょっと気恥しい。そんな夢

何で今更、こんな夢見たんだろうと祐里が考えていると、何か玄関のほうに人の気配を感じた
あ、これはまずい。とてもまずいことになったかも
ふと横を見ると梨華はまだ寝ている様子だったので、祐里は覚悟を決めた

祐里がこっそりと玄関のほうへ足を向け、様子を伺うと
竜也がこっそりどこかへ出かけようとしているところだった

「何してるの?」
思わず大きな声が出たので、竜也は驚いた様子で振り返った
自分の指を口に当て、そのまま再び外に出ようとする竜也の肩を祐里は掴んだ

「何やってるの。ダメよ」
再び大きな声が出たので、祐里は内心自分でも驚いていた

「いいから離せよ、Cabron.」
竜也が祐里の手を振り払って出て行こうとした矢先、
「竜ちゃん、いい加減にしなさい」
光が厳しい表情で見つめながらそう言った

「出て行くなら勝手にどうぞ。その代わり、もう二度と戻ってこないで」
聞いたことのない冷たい口調だったので、思わず祐里は光のほうを振り返った
光は祐里に目で合図を送った。”大丈夫、任せて”と

無言で項垂れてる竜也に、光はとどめの一言を送った
「嫌なら、私たちを殺してから行きなさい。それくらいの覚悟あるの?」

やがて梨華もさすがに目を覚ましたようで、この場にやってきた
「ほら杉浦、戻るよ」

梨華が竜也の肩を押して、4人は再び居間に戻った


「さて、反省会するわよ」
口調こそふざけていたが、光の目は笑っていなかった
目を合わせないで下を向いている竜也を、3人がそれぞれ見つめている

「私言ったよね? 黙って待っててって。聞いてなかったの?」
光が質問するが、相変わらず竜也は無反応を決め込んでいる
「あと、Cabronは男の人に言う言葉よ。間違わないで」
最後は笑いながら言ったので、竜也は今度は天を見上げた

「どうせ酒樹一人じゃ危ないから、自分もって思ったんでしょ? ホントわかりやすいよね、あんたは」
梨華は言って、やれやれという感じで大仰に両手を広げたあと、
自分の右手で左胸を二度叩いた後、左目は見開きポーズで、右拳を竜也の目前に突き出した
「一番大事な人を守らないでどうするの」
そう付け加え、梨華は祐里のほうを見た。祐里は言葉も発さず、黙って竜也を見つめているだけだった

「さて、竜ちゃんがまた祐里を泣かせたわけだけど。どうすればいいと思いますか?」
光は祐里のほうを見ながらそう言った。祐里は泣いてこそいないが、いつ泣き出してもおかしくない。そんな雰囲気

それでも無言を貫く竜也に対し、ようやく祐里が重い口を開けた
「変わらないこと 諦めないことはもちろん大事
でも変わろうとする思い 変わろうとする覚悟
そして1歩踏み出す勇気も、私は大事なことじゃないかと思うって、確かに前に言ったけど
けど、今は違うと思う。光の言う通り、待つのが正解だと私は思う」
一気に言うと、祐里は大きく息をついた
「確かに。。光と酒樹に任せっきりで悪いなって思うのはわかるけどさ」

それを聞いて梨華も頷き、光のほうを見て小さく頭を下げた
やめてよと言わんばかりに、光は手を振ってそれを拒んだ
「私は自分の居場所を守ろうとしてるだけ。好きでやってるんだから気にしないの」
光はそう言って、さらに続けた
「私を。。いや違うな。私と直ちゃんを信用して。悪いようにはしないから。約束する」

光には自信があった
地図を見る限り、まあ広さはそれなりの島であることはわかっている
とはいえ、ほとんど銃声や爆音は聞こえてこない。となれば、”やる気”になっている人は少ないはず
「探知機」を持っている直なら、極力接触を避けられる
私が頼んだこと、そして河辺夏未を探して合流することも難しくはないはずだ

黙って聞いていた竜也だったが、やがて観念したのか派手に頭を掻いた後、3人に向かって頭を下げた
「悪かった。寝起きに水木の様子を見ちゃってな。このまま黙ってここにいるのが恥ずかしいやら、情けなくなってさ」

竜也は本音を吐いた。自分たちのために必死に何かを頑張ってくれている光を尻目に、爆睡してしまった自分を恥じた結果
余計に怒られるという情けない結末になってしまった。ホント、俺と吉川が悪い

「あのね。。覗くのは祐里の着替えだけにしなさい」
光はいつもの笑顔に戻っていた。それを聞いて、笑いながら梨華も続けた
「ダメよ。薄いの見てもつまらないでしょ。覗くなら光の着替えのほうに」

ようやく落ち着いた祐里は光と梨華の額にウルフポーズでこつんとした
”いい加減にしなさい”と

そのやり取りを眺めていた竜也は、やがて上を見上げて大きく息を吐いた
「Mi vida no es una coincidencia. (これまでの人生偶然なんかじゃない)
Por fin ?ncontre mi "lugar"y"parejas"(やっと見つけた居場所、そして仲間)」

急にスペイン語を呟いたので、祐里と梨華は思わずポカーンとしたが、光は小さく頷いた
「Todo es "Destino"(すべては運命) でしょ、竜ちゃん」と続けたので竜也も笑った

「ちょっと祐里、この二人怪しいよ」
梨華が大げさに言ったので、祐里も同じようにわざとらしく大きく頷いた
「あとで光の着替えに立ち会わせてあげるからね、竜」

祐里は言うと、右目を大きく見開きポーズにして竜也のほうを見た
思わず苦笑した竜也が「Cabron.」と呟くと、「だから間違ってるよ」と光が冷静に突っ込んだのだった



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