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晩飯からのシャワーを終えた竜也と直は、女性陣のシャワーが終わるまで2階に”幽閉”されていた
竜也はいつものロスインゴパーカーにジャージ、直はこれまたいつものレアルマドリージャージ
要はパジャマというわけ

「なあ、さっきは言わなかったんだけど」
直が言ったので竜也は、ん?という感じで振り返った

「誰かは判別できなかったんだが、いきなり発砲してきたやつがいたわ。さすがに焦ったぜ」
直は苦笑いしながらこう続けた
「しかも女子だからな。慌ててレーザー見たけど、誰かわからなかったぜ」


食事中の話、直が遠目で見たというやばそうなやつは2人

鎌を持って、ゆっくりと歩いている渡辺享明。いつもの快活な感じは影を潜め、不気味としか言いようがなかったという

また違う意味で印象的だったのは豊田愛季
なぜかニコニコと笑いながら歩いていたので、絶対に近づかないようにしようと思ったと話していた
気づかれずに済んだようだったのは幸いだったと

あまり中央部には行かず、島の外回りを見てきたと直は言っていた
そしてそれは光の指示だったとのこと

「いや、まじでひでえわ。船どころか、ボートすら影一つないぞ。そしてな」
そこまで言って直は大きく息を吐いた
「海上には政府のものかわからないが、監視船だらけだったぞ。あれはまじでやべえ」

どうやら海上から脱出するのは不可能なようだった
それを聞いて、光は納得したように頷いていたがやがて口を開けた
「で、直ちゃん。私のお願い聞いてくれた?」

それを聞いて、直は自分のスマホをズボンのポケットから取り出すと、そのまま光に渡した
「ありがと。やっぱりね、そういうことか」
光はそう言って直にスマホを返した

そして間もなく、光はまたスケッチブックを取り出すとこう書いたのだった
「明日朝7時半、ここを出発します。場所は明日話すから」

え?という表情を浮かべた4人に対し、光はさらに続けて書いた
「朝9時にここ禁止エリアになるの。その前に移動しなきゃダメでしょ」と

「ったく、水木は何でも知ってるんだな」
思わず竜也が口に出すと光は右人差し指を立てて、目の前で何度か横に振った
「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」


「そうだった。杉浦、お前なんかしたのか?」
直はいたずらっぽく笑った。どうやら、抜け駆けをしようとしたのをちくったやつがいるらしい
竜也がそれを正直に話すと、直は笑いながら自分の頭を掻いた

「無茶しすぎだろ、ほんとお前さんは」
そう言って、続けた
「あのな、ばれたから謝ったのならそれ間違いだからな。水木がここにいろって言ったのを。。
うん、違うな。お前は3人を見捨てようとしたんだぞ。そう捉えられても仕方ないって話」

直は珍しく強い口調だった
改めてそう言われると、ほんと自分の無神経さに腹が立つなと竜也は思った

その様子を見て、直はまたちらっと笑った
「お願いしますよ、ほんとに」
そう言ってから、また続けた
「明日こそ、ちゃんと河辺連れて来るからさ。お前は3人をしっかり守ってくれ」

いやぁ、まじでこいつイケメンすぎて腹立つわーと竜也は感じた
顔だけじゃなく、言動までイケメン

こんなイケメンが間近にいるのに、どっかのイケメン大好きお姉さんはなんで反応しないんだろ
竜也が内心思っていると、直はそれを察したのか「どうかしたか?」と聞いてきた

「にゃ、お前イケメンだなーって思っただけ」
竜也が思わず素で答えてしまったので、直は思わず苦笑した
「なんなんだよ、急に」

「いやぁ、さすがバレンタインに4トントラック1台分チョコを貰う人は違うなーって思っただけだよ」
竜也がふざけながら言うと、直は「あほか」と破顔した
「4トンはねえよ。せいぜい2トンだろ」
直はそう言ってから、続けた
「50も貰ってないぞ。そんなもんだ」

嫌味がなくさらっと言ってのけるのは、直の人柄なんだろう。いや、十分やべえだろと内心で突っ込んでいた

「そいやお前は何個貰ったのよ」
直がそう聞くと、竜也は苦笑した。いや、ここでそれ聞くなよ、と。イケメン様とド庶民比べるのは、あかんでしょ

「んー、いつもの4人、あとはおかんと進藤の母さん。そして」
そこまで言って、竜也はニヤッと笑った
「酒樹のお姉さん2人からも貰ったから、全部で8個だな」

それを受けて、直は一瞬目を見開いた。”マジで?”

「En serio. マジで」
竜也はMXポーズを取ってみせたので、直は苦笑して頷いていた
「マジか。俺にはくれなかったのに、杉浦には..」

たまたま2月13日だったかに直の家に遊びに行ったとき、なぜか直の姉2人が竜也にチョコをくれたのだった
どうやら文化祭の「de 稜西」のことを知っていたらしい。勘弁してくれ
それにしてもえらい美人な2人だった
お返しを直にばれないように渡すのに苦労したのはいい思い出だ


閑話休題
「弟くんって呼べばいいのか?」
竜也がふざけながら言うと、直はやれやれというポーズをしてみせた
「なあ」

急に直の口調が変わったので、竜也も表情を戻した

「お前さ、結局のところ進藤のことどう思ってるんだ」
直はそう言って、ちょっと頭を掻いた
「何かお節介みたいでアレだけどさ、お前ら見てるとホント歯痒いんだよ」

”どう思ってる”言われてもな
竜也は逡巡した
泣かせたと思っていたことは誤解だった
ただ、自分と祐里ではあまりにも釣り合わないという思いはずっと消えていない
そもそも、何で一緒にいれるのか。それだけで果報としか捉えていなかった

「どうって言われても。そもそも進藤と俺じゃ釣り合わないにもほどがあるだろ
美女と野獣。。いや、俺野獣ではないな。美女と平民でいいか。そもそもあいつはイケメン好きだぞ」
竜也がそう答えると、直はまた頭を掻いた

そして直はまたちょっと苦笑いしながら
「あー、何か今日の俺のテンションおかしいな。明日謝るかもだわ。けど今日は言わせてくれ」
と前置きしてから続けた
「進藤のイケメン好きアピール、あれは”ポーズ”だと思うぞ。ていうか杉浦さ、あいつの好きな芸能人とか聞いたことあるか?
好みのタイプとか」

言われてみれば、と竜也は思った
イケメン好きーとはいつも言ってるが、具体的に誰が好きとか、こういうタイプが好きとかは一切聞いたことがなかった
あ、一人だけ好きだって言ってた人は知ってるけど

竜也が内心考えていると、直はまた続けた
「あとは、うん。お前の好みのタイプがあからさますぎるんだよ。スレンダーで話が合う、身長は160センチ以下だっけ」
竜也が頷くと、直はニヤッと笑った
「どう考えても進藤のことだろ」

そう言って、直は一人で頷いた。そしてこう加えた
「ちなみに俺は進藤に振られてるからな、”予約済みです”って。オフ会で最初お前が来た時、マジで最悪と思ったんだぞ
挙句、なぜか仲良くなったうえに振られた相手と同じバンドに入れられたんだからな。これくらい言う権利あるよな」

衝撃の事実だった
いや、イケメン好きなら酒樹断る必要ないじゃんとどうでもいいことを考えつつ、竜也は頭を下げた
「酒樹、正直、スマンカッタ」

それで二人は顔を見合わせて笑った
「頼みますよ、お兄ちゃん」
直はそう言って竜也の肩を叩いたので、竜也は力強く頷いた
「彩さんは可愛いし、礼さんは美人だよな」
「そっちじゃねぇ」

二人が盛り上がってると、ようやく下から声がかかった
「もう降りてきていいわよ」と


竜也と直が降りていくと、3人はそれぞれのジャージ姿。まあパジャマよね
湯上り美人3人衆というのは、なかなかの目の毒であった

竜也がわざとらしく見開きポーズで3人をそれぞれ凝視すると、すかさず梨華から「やめなさい」と突っ込みが入った

「さて、一つ問題が起きたんだけど」
光が低い口調で言ったので、4人は一斉に光のほうを見た
視線を感じたので、光は真剣な表情を浮かべて続けた

「大変よ。部屋が4つしかない。誰かが一緒に寝ないといけない」

何だそりゃ

竜也は思わず噴いてしまった
「問題ないだろ。誰かが同じ部屋で寝ればいいだけじゃん」

竜也が言うと、直や祐里もすぐ頷いたのだが
なぜか梨華はいつもの死んだような表情を浮かべて首を振った

「ダメね、これは一大事だわ」
そう言うと、スケッチブックに何やら書き始めた

「てれれれってれ〜 あみだくじ〜」
まさかの梨華えもん降臨。それで光も頷いた
「素晴らしいアイデアね。それを待ってたの」

どうでもいいわ
竜也は内心で突っ込みを入れるのが精いっぱいだった



(残り24人)