西日暮里譜裵瑠は暗がりの中、スマホ画面と睨めっこをしていた
その横には伊崎由香の姿もある
「プペプップープペル 今日も頑張れる」
そう歌いながら、西日暮里のしていることをただ見守っている伊崎
そして西日暮里はというと
どうにかネット接続を完了させ、クラウドファンティングで対策を行っていた
「西日暮里譜裵瑠を助ける権利 10万円」
「西日暮里譜裵瑠が生き残る対策を考える権利 5千円」
「西日暮里譜裵瑠の代わりにプログラムに参加する権利 5万円」
など、など
”自称”カリスマな西日暮里は、オンラインサロンの会員26400人超え（実数不明）
年会費3340円でぼろ儲けをしていた
「教祖」と慕うバカな信者をカモにして金を稼いで、お姉ちゃんを誑し込むのが好きな西日暮里
しかしクラスで釣れたのは伊崎だけだった
いや、正確には違うか
竹田彩乃は何度も誘うのは簡単だったが、やたら食費はかかるしなぜか金目のものが消えるしと散々だったので
いつのまにか西日暮里のほうから避ける感じになっていた
新田美玖は1度だけアレしたが、2度目は勘弁だなと感じて近づかないようにしていた
西日暮里が個人的に魅力的だった河辺夏未をナンパしたことがあったが、まるで無反応だった
拒否さえなし。眼中にすら入ってないというのは、さすがに堪えたので2度と近づこうとしなかった
そんな西日暮里がとても腹を立てたのは去年の出来事だった
文化祭、最後から3番目という出場順
西日暮里は隣のクラスの梶谷という猿のような顔をした生徒とコンビを組んで漫才を敢行した
”ドンキーコング”というグループ名で、本人たちは絶対の自信をもって行ったネタ
まあ、それはもう見事に大滑りした。完全無欠の笑いゼロ
会場は冷えに冷え、次にギター弾き語りを行った豊田愛季にもそれは悪影響を与え、ブーイングまで起きていたと聞いた
そこまでは笑い話で済んだのだが、最後に演奏を行った”de 稜西”とかいうのが大絶賛だったのには納得がいかなかった
まして、あの河辺夏未がなぜかその演奏に夢中になっているという事実
まあムカついてしょうがなかった
どうやら今年も文化祭に出ると聞いたので演奏を妨害するか、”ドンキーコング”の漫才にサクラを呼ぶか
クラウドファンティングで募集をしていた準備万端は、このプログラムによって無駄になってしまった
その時、一人のサロンメンバーからメッセージが届いた
1文字5円というぼったくりにもかかわらず、だ
「西日暮里さん、いま首輪を外せないかどうかハッキングしてみますね」
「じゃあ僕はプログラムを終了させるために本部にハッキングを」
心強すぎるメッセージだった
「助かりそうだぞ」
西日暮里が伊崎に話しかけると、
「ハロハロハロハロウィンプペプップープペル♪」
とても嬉しそうだった
やや間があったあと、どこか遠くから何か音が聞こえてきた気がしたので西日暮里は周囲を見渡した
まあ気のせいか
しかし、幻聴でも気のせいでもなかった
その音。。ギターの音は徐々に近づいてきている
おい、何だこれは
西日暮里は再び周囲を見渡したが、音は聴こえるものの人の気配も姿も感じられない
そして音はいつの間にか遠ざかって行った
「ふぅ、何だったんだ今のは」
西日暮里は安堵したが、ちょっと気になったので新たなクラウドファンティングを立ち上げることにした
「ギターの音を奏でた犯人を調査する権利 3千円」
間もなく、すぐに反応があった
そこにあった文字を見て、西日暮里は驚愕した
「Hey Jude, don't make it bad」
間もなく、再びギターの音とともに歌声がどんどん近づいてきている
「へいじゅー、どめぎばぁ」
去年、大ブーイングと共に流れていた、あの歌声だ
しかし暗闇のせいなのか、姿は一切見えてこない
恐怖のせいなのか、伊崎はがくがく震えている。西日暮里は唖然呆然として、開いた口が塞がらない状態
「豊田か？ 出て来いよ」
半分泣きそうになりながら西日暮里は叫んだ
伊崎はついに泣き出し、西日暮里にしがみついている
瞬間、西日暮里の目の前に置いてあったスマホが一瞬で破壊された
何が起きたかわからない、まさに一瞬
「でわぁ・・むふふ、私の大好きなビートルズのスーパー名曲、聞いてくーっださぁさい」
西日暮里が後ろを振り返ると、そこにはいつのまにか豊田愛季が笑いながら立っていた
「へいじゅー、どめきばぁー」
まずはギターで西日暮里の頭を一撃
「てかさぁそぉー あめきべたあ」
それから右手に嵌めている鉄製のグローブ「アイアンフィンガー・フロムヘル」で泣き叫ぶ伊崎の頭を一撃
そして最後にもう一度、うずくまっていた西日暮里の頭にも一撃を喰らわせて惨殺した
「むふふ、ギター壊れちゃった・・・」
豊田は楽しそうに笑いながら、壊れたギターで再び伊崎の頭部を殴りつけるとその場を去って行った
（残り17人）