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夢を見ていた...気がする
幼い竜也と幼い祐里、何かの約束をしてそして別れた

・・・

約束。とても大切な約束


「ほら、いつまで寝てるの。起きなさい」
爆睡を敢行していた竜也は、誰かに布団を揺さぶられて重い瞼を開けた
そこには、しっかりと制服に着替えた祐里と梨華の姿があった

「ん、今何時よ」
寝ぼけた声で竜也が言うと、梨華は笑って「5時55分。光は今酒樹を起こしに行ってるところ」と答えた
それを聞いて、直もさすがに疲れたんだろうななどと考えていた

「さっさと起きて着替えておいでね。光がミーティングするって言ってたから。じゃあ私たちは居間で待ってるわよ」
祐里はそう言って、梨華と一緒に部屋を出て行った

「わざわざ着替える必要あるのかねえ」
言いつつ、割と寝起きはいいほうなので竜也はさっさと制服に着替えて居間へ向かった
「よっ、おはよ」
直は見るからに寝起きですな表情で、竜也にそう言った

「はい2人とも、まずは顔を洗っておいで」
光が促したので、直、竜也の順でそれを済ました

顔を洗っている最中に、朝の放送が流れていた
超野ではなく、聞いたことのない女性の声で淡々と死亡者数、そして新しい禁止エリアの追加が報じられていた

「お待たせ。そいや夜中の放送とか大丈夫だったのか」
今更なことを竜也が聞くと、4人はそれぞれ苦笑いを浮かべた
「あんただけよ、爆睡してたのは。私たちはちゃんと聞いていたんだから」
祐里がそう言って笑ったので、梨華や光は笑みを浮かべて頷いた

そらそうか。一歩間違えばここが禁止エリアになって、あぼーんになった可能性もあるんだった
Anotherなら死んでたね、これマジ

いつの間にか食卓には食パンと目玉焼きが準備されている
「さて、やっぱりここは朝9時に禁止エリアになります。そこで7時半になったらみんなでここを出ましょう」
光はそれぞれの顔を見ながらそう告げた
「俺はまた河辺を探せばいいんだよな。なあ水木、今日はどの辺を探せばいいかな」
直がパンを食べながら光に地図を見せようとすると、光はそれを制した

「ううん、今日は直ちゃんには別の”仕事”をして貰いたいんだけど。いいかな」
いうと、また昨日と同じように何やら耳打ちをした

黙って聞いていた直だったが、「マジで? やばくね?」とちょっと驚いた表情を浮かべた

「うん、確かに危ないと思うけど..できるのは直ちゃんしかいないんだよね。お願いできる?」
光は真剣な眼差しでそう言ったので、直はしばし考えた様子だったが、やがて
「オーケイ、わかった。やってみるわ」と小さく頷いた

「お願い。その代わり、絶対無理はしないこと。危ないと思ったらすぐに逃げてね」
光がそう言ったので、直はまた頷いた

取り残された格好の3人は、それぞれパンを食べたり目玉焼きを食べたり

「塩をぱらりの、胡椒をぱらりで行きたいね」と笑いながら祐里が言うと、
「どうしてだね? 七味をかけない目玉焼きなど考えられないだろう」と梨華も続けた
「やっぱ醤油だよねー」と空気を読まない竜也
いつもの三者三葉

それに気づいた光は、「ごめんごめん」と言って地図を開いて見せた

「私たちが最終的に目指すのは此処です」
光が指で示したのは、島の端にある廃墟だった
「ただ、ここに到着するのは明日の..そうね、午後にしましょう。今日はここに行きます」
改めて示した場所は、今いる場所と廃墟の中間地点より、やや行ったくらいの地点
3キロか4キロくらいはあるだろうか

「直ちゃん、遅くても4時までにはこの場所に集合してください。時間が迫ってくるとリスクが高くなりすぎるから」
光がそう続けたのを受けて、直はまた頷いた。ホント、直は余計なことを喋りたがらないのよね。だがそれがいい

「じゃああれか。俺が河辺を探しに行けばいいのん?」
竜也が箸を咥えながらそう言った。光が反応しなかったので、肯定と判断した竜也は続ける
「時は来た。それだけだ」

思わず梨華はプッと噴き出したが、祐里は無表情のまま竜也の頭を軽く叩いた
「あんたは私たちと一緒に行くのよ。光、そうでしょ?」
祐里の問いかけに、光は小さく笑みを浮かべながら頷いた

「何でだよ。やる前に失敗すること考えるバカいるかよ」
竜也はそう言ったが、さすがに誰かをビンタするわけにはいかなかったので渋々引き下がった

朝食をそれぞれ取り終え、しばらくは歓談の時間
祐里が急に慌ただしく動き出したので、梨華がそれを咎めた
「どうしたの。もうそろそろ出る時間よ?」
「ない..ない!」

祐里の表情がこわばり始めたので、梨華と光は心配げに祐里の元へ寄って行く

"スカルエンド”と”バレンティア”の入り方の練習で戯れていた直と竜也も、祐里の様子に気づいたので慌ててそれを中断した

「祐里落ち着きなさい。どうしたの」
いつも冷静な光が窘めるが、祐里は何かを必死に探しているのをやめなかった

「おい、杉浦どこに行く」
直がそういう前に、竜也は自分たちが寝ていた部屋に戻った
そして、見つけた。これだろ、きっと。さっき目についたのは気のせいじゃなかったか

すぐに戻り、それ「おもちゃの指輪」を祐里に渡した
パニックから過呼吸を起こしかけていた祐里だったが、それを受け取ると安堵からか
腰が抜けたようにしなしなと崩れ落ちるようにしゃがみこんだ

やがて祐里は、またいつかのように指輪を天にかざして「ありがとう」と呟いた
それを見てちょっと恥ずかしくなった竜也は、「そんなのただのおもちゃだろ」と言ってしまった

それを聞いた祐里は、きっとした目で竜也を睨むとその場から走って行った
「おい、待て進藤」
直は素晴らしい反応でそれを追って、その後に光も続いた

「杉浦。。言わなくてもわかるわよね?」
梨華が呆れたような表情で竜也を見つめた
ちっ、うるせーな。反省してまーすと一瞬脳裏によぎったのは内緒にして、竜也は黙って項垂れていた

やがて光が祐里を宥めながら連れ戻してきた
直は「杉浦。ちょっと来い」と手招きしたので、竜也はそちらのほうへ足を向けた

「お前さ、あんま俺を失望させるなって。友達やめるぞ?」
そう話す直の目には笑いの色はなかった。竜也は相変わらず沈黙を貫いているので、直が続ける
「あれ、進藤が大切にしてるってわかって取りに戻ったのお前だろ。なのに何であんなこと言うんだよ」
言いながら、直はやれやれという表情を浮かべた。ホント、もう勘弁してくれ。素直になってくれと

「ほら戻りますよ、お兄さん」
直は竜也を無理やり居間に連れ戻し、ポツンと座っている祐里の横に無理やり座らせた

「はい竜ちゃん、祐里に謝りなさい」
光はまるで幼稚園の保母さんのような優しい言い方で竜也に促した

「杉浦。早く謝らないと祐里はもう2度と口聞いてくれなくなるよ」
梨華は半分笑いながら、半分本気な口調でそう言った

正直、スマンカッタと言ってごまかせる雰囲気ではなかった
ヴァー、ポカやった。ポカやりすぎたで済む雰囲気でもない
しかし3人に見られている中で、ちゃんと謝るのも気恥しいといろいろ逡巡していた

「...もういいよ」
祐里が小さく呟いた。いつもと違って、かなり低いトーンだったので竜也はかなり驚いた
「そうだよね。こんなのただのおもちゃだよね。私どうかしてた」
そう告げた祐里の表情はとても寂しげだった
今まで見せたことのないその表情を見て、なぜか昔の自分の姿と重なった

あの時。ずっと泣いていたあの10年前
公園で泣いていた自分を励ましてくれた、あの少女
けれど家に帰ればまた独りぼっち
鏡で見た自分のあの時の表情とそれは一致して見えた


竜也の頭の中に、何かの映像が思い浮かんできた
遠い記憶。。
いつかの、あの記憶


『大きくなったら、指輪ともう一つプレゼントをする。そしたら僕の...お嫁さんになってください』


思い出した。思い出してしまった
つか俺、もうプロボーズ済みじゃん。アホじゃね。どんだけませたガキだったんだよ...


このまま2階に駆け上がって、窪塚洋介になりたい気分になった
「I can fry!」
高所恐怖症だけど

思考回路がパンクしそうな竜也を尻目に、祐里が「そろそろ時間だよね。行こうか」と促した
明らかに様子がおかしい祐里に気づいて、光と梨華はとても心配そうな表情を浮かばていた


「...Cabron」

竜也はようやく口を開いた
祐里の視線は虚ろだったが、他の3人は竜也のほうに向いた

「ホント、自分のバカさ加減にいい加減腹立ってきた。進藤、本当にごめん。謝って済むことじゃないかも知れない
謝ってるのはただの俺の自己満足かも知れない。ただ照れ臭かったんだよ」
言って竜也は頭を掻いた。祐里は虚ろなままの視線を竜也に送った

”傷つけたあなたに 今告げよう 誰よりも愛してると”
大好きな曲のフレーズが竜也の脳裏によぎった

ええい、ままよ

竜也は祐里の肩を掴むと、しっかりと祐里の目を見て、ひとつ息を飲んでからこう言った
「祐里。もうなんて言っていいかわからないけど、ホントごめん。そして今更思い出した。遅れてごめん。俺と...」
祐里はそこまで聞いて、竜也の言いかけた言葉を制した

「わかった。続きは無事に戻ってから聞くから」

祐里はそう言うと、見開きポーズで竜也の顔をまじまじと見て、そして小さく笑った
そのやり取りを固唾を飲んで見守っていた3人は、それぞれ安堵して肩を撫でおろした

「お待たせしました。そろそろ行きましょうか?」
竜也が軽い調子でお伺いを立てると、梨華はまたいつもの死んだような目でぼそっと言った
「戻ったら杉浦の奢りでファミレスだからね」
それで直も笑って頷いた
「杉浦がトイレから戻ると、そこには伝票だけが取り残されていた。だな」

5人はそれぞれ顔を見合わせて笑った。

「さて、そろそろ出ないとまずいわね」
光が時計を見てそう促したが、祐里が「ちょっと待って」とそれを制した

不審がる光を見て祐里はニコッと笑うと、自分の右胸を2度叩いてから右拳を天に翳した

「はいはい。ほら、杉浦くんからでしょ」
祐里の様子を見て苦笑いした光は、竜也に続くように促した
竜也、梨華、光、直の順でそれぞれ拳を合わせてから、それぞれ出発の路についた




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