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光の指示で別行動となった直と別れた4人は、目標とする場所へ移動を開始していた

舗装されてない道を約4キロ。体育会系がいないだけになかなか辛い道のりになりそうな気がすると竜也は感じていた

一番大切な人。そして絶対に守らないといけない知能、そして...

「タネキ、大丈夫か?」
こっそり聞くと、梨華は小さく頷いた
「ならいい。絶対に無理するなよ」
竜也はそう言ってから、周囲の様子を伺った

目の前には草が生い茂った、見通しの悪そうな木岐が連なった林が続いている
ここで襲われたらひとたまりもねえなぁ。。物騒なことを考えてしまってちょっと後悔
とにもかくにも、責任重大なわけで
もうTranquilo.じゃいられねえなぁと竜也は内心感じたので、思わず右拳で左胸を2度叩いて自分を鼓舞していた

その様子を見ていた光は、思わず小さく笑いながら
「頼りにしてるわよ、制御不能なスペル・エストラージャ」
と揶揄ったので、梨華もつられて笑った

「このプログラムの主役は、俺だ」
竜也がわざとらしくカッコつけて言うと、祐里は笑いながら頷いた
「まずは、民家でしょ。ほら、さっさと歩きなさい」

光を先頭に、祐里と梨華が並んで、竜也が一番後ろという配列
竜也が先頭を歩くと、せっかちな性格が災いするのが目に見えているのでこの順番になった

さっさと歩きたがる性分なのは祐里が誰よりも知っていたので、「あんたは一番後ろ。ハイ決まり」

「はいはい、金ヶ崎の殿軍務めますよ」
竜也が言うと、光がそれをすぐ窘めた
「ダメダメ。ほとんど全滅するやつでしょ、それ」
さすがの知識量。三国時代と戦国時代しか知識がない俺じゃ勝ち目ねーわ

「そういえば、酒樹に何頼んだの?」
梨華が聞くと、光は小さく笑って頷いた
「その答えは、もちろん...Tranquilo.よ」
おいおい、俺の持ちネタ使うんじゃねーよと竜也は心の中で突っ込んだ

「そうそう。ルート上に夏未がどこかにいると思う。注意して探そうね」
光がさらっと言ったので、3人は互いに顔を見合わせた。何でわかるんだ?と
その様子に気づいたのか、光はまた小さく笑った
「その答えは、もちろん...」



同じ頃、直は舗装された道のほうを進んでいた
光の指示はなかなか難しそうに思えたが、頼まれたからにはやらないわけにはいかない
『”豊田愛季”を廃墟に誘導する』
とんでもないこと考えるよ、と直は思った

光が言うには脱出のカギとなる廃墟には、すでに”先客”がいるとのこと
その先客と、どうやら殺人鬼と化してしまった豊田愛季を潰し合いをさせるというのが光の狙いだった

つか、殺人鬼をどうやって誘導するんだよというのが直の疑問だったが、光の答えは明確だった
「大丈夫。豊田さんは私たちには手を出してこない」
時間がなかったので根拠は聞けなかったが、自信満々に光がそう言うととても信頼感はあった

「豊田さんに会って、地図で廃墟の場所を指差して。あなたを傷つけた犯人はここにいる」
そう言うだけで十分だよ、と光は言っていた
そしてそれが出来るのは竜ちゃんじゃなく、直ちゃんだよと
直と竜也はどちらも口数が多いほうではなかったが、直のほうが女子と話す機会は多かった点を評価したのだと思われる

豊田かぁ、あんま得意じゃないんだよなーと思いつつ、地図のほうに目を向けた
光が「この辺を探してみて」と言った場所までは、わりと距離があった

さて、油断しないで行かないとな。。
直が思った矢先、「おい。酒樹か?」と不意に後ろから声がかかった

しまった、と直は思った。やっちまった。地図を真剣に眺めすぎて人が近づく気配を感じ取れなかった失策
これは致命傷だ。すまん、杉浦、水木、進藤、種崎。俺はここまでのようだ
直は思わず天を見上げた


「俺だ、後藤だ。お前に危害を加える気はない」
直の様子に気づいたのか、声をかけてきた後藤は丁寧に名乗ってきた

それで直が覚悟を決めて振り返ると、後藤は表情こそ真剣だったが、両手を上げて何もしないぞとアピールしていた
ようやく安堵した直は、大きく息をついた
後藤和興、柔道部のプロスペクト
特段交流があるわけではないが、直と同じで部活のホープということで、互いにリスペクトの心は持っていた

「なあ、ヨシハチを見なかったか?」
後藤が聞いてきた
ヨシハチこと吉田八郎。後藤の舎弟的存在。同い年なんだけどな。何でも幼少期からずっと一緒ということらしい
杉浦と進藤みたいなもんかな、よく知らんけど

「いや、見てないな。昨日はわりと外回り歩いたけど」
直がそう答えると、後藤は「そうか」と項垂れた様子を見せた

後藤が言うには、1度だけ見かけた気がするんだが、声をかける前にあっという間に見失ったという
物事が変わるのは一瞬とはよく言ったものだと自嘲していた

「で、お前は一人なのか? よかったら一緒に行動しないか?」
後藤がそう提案してきたが、直は「にゃ、実は」と首を振った

竜也、祐里、梨華、光と行動していることを伝えると、後藤はニヤッと笑った
「さすがだな。お前らの変わらない友情に万歳三唱を送りたい気分だ」
思わずほんとにやりかねない様子の後藤に、直は思わず苦笑して手を振った

「まあ、冗談はさておき」
冗談だったのか

「なあ酒樹、渡辺には気をつけろよ」
急に真剣なまなざしに変わって後藤は言った
「あいつには悪霊が憑りついている。絶対に近づくなよ」
そこまで言うと、後藤は小さく息を吐いてから続けた
「あいつは俺が除霊する。元のプレミアムな渡辺に絶対に戻してやる」

どこまで本気なのかわからない発言だったが、とりあえず直は頷いておいた
まあ、水木も”渡辺くんには絶対近づかないで”と言ってたしな
それで直も、後藤に一言伝えておいた

「後藤、豊田愛季だ。あいつがやばいらしい。気をつけろよ」
まさかの女子の名前だったので、後藤は一笑に付そうとしたがやがて頭を振って考え出した

「...わかった。よくよく考えなくても、あいつ俺よりでけえしな。その言葉胸に留めておく」
後藤は苦笑いしながら頷いた

「じゃ、俺そろそろ行くな」
直が言うと、後藤は再び頷いた
「あぁ。俺はこっちだ。また機会があったら会おうぜ」

二人はグータッチをしてから、それぞれ別の道へ分かれて行った



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