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「実はね...」
移動中、光が不意に呟いたので竜也、祐里、梨華は先頭を歩く光のほうに注目した

「直ちゃんに頼んだのは...」
豊田愛季を”どこか”(廃墟とはわざと言わなかったが、確実に廃墟のことだと思う)へ誘導することだと言った

「え、それって...」
祐里が思わず絶句し、
「...大丈夫なの?」
梨華も小さい声で続けた

「んーとね、わかんない」
光が涼しい声でそう言ったので、竜也は思わずずっこけそうになった

「正直なこと言うね。今のままだと、私たちが無事に生き残れる可能性は...そうね、2%くらいかな」
相変わらず涼しい口調だったが、とても残酷なことをさらっと言ってのける光
思わず祐里と梨華は小さく震えだしてるように見えた

「だから確率を上げないと。酒樹くんが成功して、私が今日もう1回作業する。それで26.4%まで持っていくから
あとは明日。そこで200%まで仕上げるから安心して」

そう言って、光は親指と小指だけを立てる”Mr.200%”ポーズをしてみせた

「頼りにしてますよ、水木大明神」
竜也が拝んでみせると、光はやめなさいと右手を振って制した


”...ホント、貴方たちはお人好し過ぎすぎる”
一度前を向いてから、光は聞こえないようにそう呟いた

それから何事もなかったように、またいつものクールな表情に戻してから光が言う
「一応ね、ちゃんと根拠はあるのよ。豊田さんが”壊れた”のはあの文化祭のせいだと思うんだ」

文化祭

”de 稜西”の前に演奏して、何やら酷いブーイングや罵詈雑言が飛び交っていたというのは、2学期になってから風の噂で聞いた
普段の授業などでは、特段変わった様子を見せていなかった気がするのだが、内心は相当に堪えていた、ということなのだろう

「けど、それがどうして襲われない根拠になるの?」
祐里が聞いたのはもっともなことだろう。竜也もそれは思った。むしろ俺たちのほうがやばくね?と

「そこなのよ」
光がそう言って小さく笑った
「あの時、演奏を終えて豊田さん戻ってきたときのこと覚えてる?」

竜也はすぐに首を振った。「にゃ、全然記憶ない」と
それから祐里と梨華も同じように首を振ったので、光は小さく頷いた

「私は覚えてる。いつもニコニコしてる豊田さんが、あの時は明らかに沈んだ様子で戻ってきたのね。
それで私たちに、”どうだった?”って聞いたんだけど」
「私たち、自分たちのことであの時いっぱいいっぱいだったじゃない?」
そう言って光はまた小さく笑ってから続ける

「みんな一様に、よかったよー。とか、頑張ったねーとか、割と適当って言ったら語弊だけどちゃんとねぎらってあげたのよね
特に竜ちゃんなんて、凄い良かったぜって言ってたからね。アレ絶対パニックなってたからデタラメ言ったでしょ」

光はそこまで言うと、竜也のほうを見開きポーズで見たので、竜也は「オフコース」と同じポーズで見返した

自分の演奏のことで頭真っ白を通り越して、過呼吸寸前だったからホントに何も覚えてないのが現実だった
ただでさえ人見知りなんだからさ、ほんとよくあんな舞台で歌えたもんだ
今年もやる予定だったとか、改めて考えると夜も10時間くらいしか寝れなくなりそうだわ

「だからと言っちゃおかしいけど、私たちには危害を加えないんじゃないかなと思ったのが根拠
ほんとは竜ちゃんが一番適任のような気がしたんだよね、凄い良かったって褒めた人を普通は殺さないでしょ」
そう言って光はまた小さく笑った

「けど..竜ちゃん方向音痴だし、豊田さんに遭遇したら絶対パニック起こすと思ったからやめたのね。
で、世の中には素晴らしい格言があるからそっちを信用してみることにしたの」

そこまで言って、光は見せたこともない冗談っぽい笑顔を見せた
「”ただしイケメンに限る”ってやつね」

また竜也はずっこけそうになった。なんか光の様子がいつもと違う気がする
いつもクールで周りのツッコミに追われているのに、なぜか今日はボケ倒している
まあ、状況が状況だからしょうがないのか...などと、竜也は勝手に自分の中で肯定していた

その後もしばらく歩いたが、一向に林を抜ける気配が見えなかった

やや歩いた後、光が急に立ち止まって振り返った

「どうしたんの?」
祐里が聞くと、光は両手を合わせて頭を下げた
「...ごめん、道間違えた」

竜也はまたまたずっこけそうになった。おいおい、頼みますよ。貴女は”de 稜西”の未来なんですから...

そんな時だった
目の前に立っていた、梨華が急にフラーっと倒れこみそうになったので祐里と竜也が慌ててそれを抱き止めた

「...種ちゃん、大丈夫?」
祐里はそう言って梨華の額に手を当てて、「...熱あるじゃん、言いなよ。無理しないの」
と心配そうに言ってから、その場に座らせた

左側は土手になっているし、足元は石などがたくさんある。そして前方はまだ木が連なっている
はは、ここで誰かに襲われたらひとたまりもないねえ..竜也は呑気にそう考えていた

...なんだろ。なんか妙に土手のほうが気になるなと竜也は感じた
「ごめん、ちょっと向こう見てくる。進藤、水木。タネキのこと頼むな」
そう言って、竜也は土手のほうを目を凝らして見てみた

「...あれ、人じゃね。誰か倒れてるぞ」
思わず叫んで呼びかけそうになったが、さすがにそれは自重した

そこまで離れた距離ではなかったが、倒れてる人”女子”が誰かははっきりと判別できなかった
...が、どうも河辺夏未のシルエットに見えてしょうがなかった

「水木、あれ河辺じゃないか?」
竜也が光を呼び寄せてみた。最初は祐里を呼ぼうかと思ったが、祐里はもの凄く視力が悪いのでやめておいた

「え、どこ?」
光は竜也が指した方向を目を凝らして見て、やがて頷いた

「...そうね、夏未に見える。助けに行かないと」

そこで竜也が胸を張った
「ようやく俺の出番か。ここはNo Tranquilo.で行かないとな」
そう言って行こうとする竜也を、
「ちょっと待って...」
と光が制したが、せっかちな竜也はすでに土手を駆け下りて行った後だった

「...嫌な予感がする」
光は呟いてから、祐里のほうを振り返って小さく首を振った
梨華は相当辛いのか、全然言葉を発していなかった



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