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河辺夏未は開始直後から道に迷い込んでいた

"de 稜西”のメンバーと合流したかったのだが、歩けど歩けど好転せずな状況
不思議なくらい誰とも遭遇しないまま、何時間くらい経過したのだろう
そして、いつの間にか茂みの中というか、林の中に迷い込んでしまっていた

「...まさにDESTINOか。私は”de 稜西”のメンバーじゃないんだから」
夏未は自嘲していた
そう、何度も祐里や梨華から「一緒にやろう」と言われていたのだが、夏未は固辞していたのだった

表向きは「私はフルートしかできないから」
そして、本当の理由は...


10年前。夏休みに親戚の家に遊びに来ていた夏未は、小さな公園で一人の男の子と出会った
ずっと泣いていたその子は、話しかけてもまるで反応がなかった
そこで夏未は一計を案じた

「男の中の男、出てこいや!」

男の子はキョトンとして、夏未のほうを見た
「ねえ、一緒に遊ぼ。きみの名前は?」

少年は、「竜也」と名乗った


中3の冬に引っ越しで函館に来た夏未は、稜西高校へ入学
代り映えのない生活を送っていたのだが、1年の文化祭のあの出来事から生活は一変した

「LOS INGOBERNABLES de 稜西」

何気なく見ていた文化祭のステージ、シンガリで登場して来た服装がばらばらの異色な集団
その中の白スーツのボーカルを見た瞬間、夏未は思わず声が出そうになった

クラスが違ったから知らなかった(なにせ陰の者ですから)
あの時の子と、まさかまた会えるなんて。そりゃ風貌とかは違ってるけれど、あの目の感じは間違いないと夏未は直感していた

夏未はすぐに行動を起こした
後夜祭ですぐに”アタック”してみたところ、案の定名前が「竜也」であることを知った

すぐに夏休みだったので、その日はそこで終わってしまったのはちょっと残念だった
しかし2学期になってすぐ、また接触をしてみたところ予想以上にフレンドリーにメンバーは接してくれた

ただカラオケで駄弁るだけの「部会」
必ず伝票だけを取り残していこうとする「ファミレス」
今までの代わり映えしない生活に、ちょっとしたアクセントが加わっただけなのだがとても楽しく充実して行った

しかし夏未には、拭い切れない疎外感を感じていた
絶対に入り込めない、壁のような何かがあると

それは勝手に感じてるだけかも知れない
事実、何度も「メンバー入り」を勧誘されていたし、実際カラオケでは何度もデュオやデュエットもしたし

その違和感の正体は、2年になってメンバーと同じクラスになってわかった
夏未が恋焦がれた、初恋の相手「杉浦竜也」は、誰が見ても進藤祐里と両想いということにはっきりと気づかされたからだ

「部会」の時は、基本女子組・男子組という感じで会話してたので気づかなかったのが自分でも情けなかった
一応本人たちはそれを否定はしていたが、どう見てもそうとしか思えなかった
そして光や梨華、直もそれを把握しているということ

「何だ、私とんだピエロじゃん」
とある日、夏未は自嘲した
もう一緒にいるのやめようと何度も思っていたが、居心地のいい空間であったのも事実
気づいたら今日の日に至ったというだけのお話


割り切ってメンバー入りをしておけば、よかったのかなと思ったがもう後の祭り

こんなプログラムに巻き込まれた上に、道に迷ってしまうという失態
八方塞がりな状況でしばらく思案していた夏未だったが、とりあえず前に進むしかないという結論に至った
とにかく前へ。あとはそれから考えよう

そんな時、横の草むらが揺れたので、夏未は身構えた

一瞬の出来事だった
横から飛び出してきた竹田彩乃は、いきなり夏未に体当たりを喰らわせてきた

思わず弾き飛ぶ夏未に対して、竹田は追撃の腹パンを喰らわせる
声も出せない夏未のスカートのポケットから財布とスマホを盗むと、スマホはその場にポイ捨てした

「あんたね、前から目障りだったのよ。うぜぇ。消えちゃっていいよ」
そう言ってから、竹田は夏未をわざわざ立ち上がらせてから、土手のほうへ突き落した

「ちっ、全然金持ってねえじゃん、それでもお嬢様かよ」
竹田は捨て台詞を言い残してから、何事もなくその場を去って行った


突き落された夏未はしばらく気を失っていたが、やがて意識は戻った。いつの間にか夜になっていた
とりあえず立とうと思ったが、足首に激痛が走って動けなかった

「痛っ。。やばいな、動けないよ...」
夏未の目には涙が滲んできた
「怖いよ...寒いよ...」

頭によぎるのは、”de 稜西”のいつものメンバーの顔
「誰か...助けに来て...」
またも足首に激痛を感じて、夏未は再び気を失った



廃墟前、一人の少女がどこからか戻ってきた

”朝食”を近所の民家で調達して、ついでにシャワーを浴びてという舐めプ
”ふふ。どうせ、まだまだ水木光は来ないからね”

”さて、今日はどう挑発していこうかな”と考えて戻ってきた少女に対して、不意に廃墟の中から声がかかった

「おう、友利。プログラム、やらなきゃ意味ないよ」

予想外の出来事に、少女・友利悠衣は驚愕の表情を浮かべた
それを見て、んほぉった表情を浮かべたのは白のTシャツにジーンズ姿の山崎達也だった


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