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「河辺、大丈夫か?」

倒れている夏未に駆け寄って、竜也は夏未の体を揺すった
息はあったのでほっと一安心し、外傷も特に見当たらなかったのでもう一安心

ややあって、「ん..」と夏未の反応があった

「よかった。気が付いたか」
夏未は声のしたほうを見て、そこに竜也の顔があったことにとても驚いた

「...え? 竜くん?!」
思わずのけぞったが、再び足に激痛が走ったことで顔をしかめた
それに気づいた竜也が「どこか痛いのか?」と聞いたので、夏未は小さく頷いて自分の足を示した

「竹田彩乃に突き落とされちゃってね。足が痛くて動けないんだ」
そう言って力なく首を振る夏未
スカートから覗く足をまじまじと見るわけにはいかなかったので、竜也は頭を掻いた

「わかった。上で進藤と水木が待ってる。俺が連れてくから安心しろ」
言うと、竜也は”お姫様抱っこ”の要領で夏未を抱えた

「こう見えても45キロまでなら持てるからな」
よくわからないことを言って、竜也は照れ臭そうに夏未を抱えながら坂道を登り始めた
降りるときは楽だったが、さすがに女子を持って登るのは容易ではなかった

「...大丈夫? 私重いでしょ」
夏未が心配そうに言うと、竜也は思わず苦笑して首を振った
それは事実で、思った以上に軽かったのだから。いやぁ、女子って本当に凄いですね

「しかしやべえな。竹田だっけ、とんでもねえわ」
竜也はしみじみと言った。それは本音だった。そして、1回小さく頷いてから続けた
「まあ、もう大丈夫。ここで見つけれたのは、まさにDESTINO.」

そうは言ったものの、思った以上に夏未を抱えて険しい土手を上るのはなかなか難儀だった
両手が塞がってるわけで、なかなかうまくいかない状況
失敗した、”おぶったほうがよかったか”などと竜也は頭で考えていた


「竜、大丈夫?」
その様子を見ていた祐里が呼び掛けたが、竜也は返事をする余裕もなかった
それに気づいた祐里は、今度は「夏未は大丈夫?」と声をかけた

「ごめん、足が痛くて動けないんだ」
夏未が申し訳なさそうに返したので、祐里と光は心配そうな表情を浮かべた


そんな時だった
草むらが揺れる音がしたので、祐里と光は梨華を挟むようにしゃがんで様子を伺った

「...ったく、騒がしいなぁって。3人もいるんじゃない」
草むらから姿を現したのは、小柄でちょっと太めな少女だった
何の意味があるのかわからないが、謎の覆面を被っている

「ほら早く。金目のものと食料置いてきな。じゃないと...河辺みたいに全員突き落すわよ」
マスク越しでもわかる。少女は不敵に笑っていた

「って、病人までいるの。。奇特な連中ね。いっそここでみんな死んじゃう?」
言うが早いか、謎のマスク少女は3人めがけて突進してきた

祐里は梨華を守りながら必死にそれを避け、光はうまくそのマスク少女の足を引っかけ転ばせることに成功した

「痛っー。...あんたら、絶対に許さない」

妙に上が騒がしく、嫌な予感しかしなかったので竜也は起死回生の「火事場のクソ力」で一気に斜面を登ることに成功した


そしてそこで見た光景は、なかなか凄惨なものだった

一人のマスク女が突撃を喰らわせてきてるのを、必死にかわしている祐里たち
マスク女からみなぎる殺気に、祐里や光は完全に気圧されていた

夏未を抱えたまま、竜也は思わずマスク女に向かって叫んだ

「竹田だろ、お前。オマエ、竹田だろ!」
思わずパニックでわかりきったことをつい言ってしまった

それを受け、竹田は不敵に笑った
「ふーん、河辺はまだ生きてたんだ。って、チキンでコミュ障の杉浦じゃん。あんたもいたんだ」
そこまで言うと、竹田はようやくマスクを脱いだ
「ったく、めんどくさ。あんたら5人、あたしが地獄に送ってやんよ」

言うが早いか、また竹田は竜也に向けて突進してきた
それを察した竜也は「悪い、1回おろすぞ」と小さく言って夏未を下ろした

竹田の突進に合わせて竜也もダッシュで迎撃した
軽くジャンプをして、左膝で竹田の顔面を打ちぬく飛び膝蹴り。”ブサイクへの膝蹴り”をお見舞いした

もんどりうって倒れる竹田を尻目に、竜也は素早く立ち上がるとちょっとした段差をすぐそばに発見したのでそこに腰かけた

「ちょ..竜、何するの」
気づいて何かを言いかける祐里を制し、竜也はフラーっと起き上がった竹田の背後からリバースDDTの体勢に捉えた
そしてそのまま旋回しながら竹田の後頭部をしたたかに叩きつける”リバース・スイング・デスティーノ”をお見舞いした

「ふぎゃー」と悲鳴を上げて倒れる竹田を確認すると、竜也は再び素早く立ち上がった
その場に座り込んでいた夏未を背負い、梨華を抱き上げると祐里と光に「逃げるぞ」と促した

「ちょっとあんた、2人も行けるの?!」
祐里は驚いた表情を浮かべたが、竜也のリュックも一緒に持って立ち上がった
光も苦笑しながら、「竜ちゃん、無茶しすぎ」と言いながら立ち上がる

「さ、早く行くべ。さすがに2人持って長くは走れん」
竜也も笑いながら、祐里と光と一緒にその場から走り去った


しばらく経って、竹田は脳震盪状態から回復した
「ったく、マジになりやがって。痛ぇーわ」
頭を押さえて立ち上がろうとした瞬間、また頭に強い衝撃が走った

?!
思う間もなく、また一撃。そしてもう一撃

「ふざけんなよ、この豚。人の財布や時計盗みやがって」
そこには大きな石の塊を持った水田菜々が立っていた


今にも演歌を歌いだしそうな風貌で菜々は鍛え上げられた剛腕でもう一撃竹田の頭部にトドメの一撃を喰らわせたのであった



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