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5人は家に入った

光はすぐに梨華に熱冷ましの頓服を飲ませ、夏未の足にテーピングを施した
テーピングのあまりの手際の良さに感心してしまうレベル
その間に竜也が布団を敷き、梨華を寝させた

祐里はその間に手際よく昼ご飯を調理していた
「酒樹のは来てから作ればいいわね」
などと独り言を言っていた

昼食(うどん)が食卓に並び、4人がそれぞれ食べ始めた瞬間に12時の放送が流れ始めた
何気なく聞き流していた竜也だったが、死亡者の中に”竹田彩乃”の名前を聞いた瞬間、顔色がさっと変わった
直後、「ちょっと風に当たってくる」と言ってベランダのほうへ向かった

光や夏未が何か言いかけるのを制して、祐里が「私に任せて」と言ってすぐに竜也の後を追った

ベランダの柵に手をかけ、竜也は空を見上げていた

「こら、うどん伸びちゃうでしょ」
後ろから祐里が声をかけるが、竜也は変わらず上を見上げたままだった

それで、祐里はやれやれという感じで
「ったく、ホントわかりやすいんだから」
言って、竜也の横に並んでから、わざわざ見開きポーズをしながら同じように空を見上げた

その様子を見て、竜也は首を振りながら
「わかってるんだけどな。わかってるんだけど...」
と口を濁して項垂れた

祐里はそんな竜也を見て小さく笑ってから、竜也の右肩に手を乗せた
「あのさ、あんたが”デスティーノ”してなかったら、私たち今こうしてここにいなかったんだよ?」
言ってからちょっと吹き出したように続けた
「まさかあんな派手なことするとは思わなかったけどさ。けど、ホントありがと」

それでも割り切れない、吹っ切れない様子の竜也に対して、祐里は仕方ないなあというような表情を浮かべた
ホントにこいつは、いつもこうなんだから...

祐里は竜也の右手を取ると、自分の左胸に当てた
?!とハトが豆鉄砲喰らったような表情を浮かべる竜也に対してにっこりと笑った
「心臓の音聴こえるでしょ。あんたのお陰で私は生きてるんだよ。それじゃダメなの?」

ようやく竜也は頷いた。胸から手を離すと、照れ臭そうに頭を掻いた
「我ながらめんどくせーやつだわ、マジで」

祐里は「ホントにね」と呟いてから、急に小さな声で歌を口ずさみだした

”来年の夏の 二人の記念日
出会った場所でお祝いしましょう
これからもずっととなりにいるのが
どうか あなたでありますように”

歌い終えた後、祐里はしみじみと言った
「来年も一緒に居れるといいね」

竜也はそれを聞いて、心から何度も頷いた

ややあって、「ほら戻るよ」と祐里が促した
居間に戻ると、「悪りぃ、心配かけた」と言って竜也は光と夏未に軽く頭を下げた
それを見ながら、祐里は後ろからVサインでおどけて見せたので光と夏未は思わず笑ってしまった

「うどん、伸び切って御つゆ残ってないよ」
夏未が小さく笑いながら言ったので、竜也と祐里は顔を見合わせて再び笑った


食後。”罰ゲーム”で竜也が食器を洗っている間、光は梨華の様子を見に行っていた
梨華の多少熱が下がってるのを見て一人頷いてから
「じゃあ私作業に入るから。後はよろしく」と言い残して、別室に行ってしまった

祐里と夏未は何かの雑談をしていた
洗い仕事を終えてから、竜也は2人に「ちょっと水木のとこ行ってくる」と告げて退出した

ノックしてから、「水木ちょっといいか?」と声をかけると、すぐにドアが開いた
「どうしたの?」
光はちょっと怪訝そうだった

「明日の話だけど」
竜也がそう言いかけると、光は納得したように頷いた
「種ちゃんのことね?」
おい、何もまだ言ってないぞと竜也は思って苦笑した
光はそれに気づいて、小さく頭を下げた

「ごめんなさい。その時間じゃないと無理なの。私の力不足ね」
思い切り下手に出られて、竜也は何も言えなくなった

”タネキの体が心配だから、もっと早く行けないのか?”
それを言いにきたのだが、どうしてもその時間じゃないと駄目だという
理由をはっきり聞きたかったが、あいにく筆談を出来るものを今は所持していなかった

「とりあえず熱は下がってきてるみたいだから。あとは回復力に期待するしかないわね」
光はそう言って、何かを思い出したかのように頷いた
「あ、そうだ。夏未に痛み止めあったから、飲んだほうがいいよと伝えといて」

それで竜也は完全に毒気を抜かれてしまった
これだけ他人のことを気遣える人が、わざわざ明日の17時にこだわるのだからちゃんとした理由があるのだろうと
タネキのことを考えてないはずがないよな。と納得させられて、もう説得をする気が消えてしまった

「悪い、邪魔した」
竜也は右手を上げて去って行った
光はその姿を見ながら、「わかってる。あとは種ちゃんの生命力に賭けるしかないんだ」と小さく呟いた

竜也が居間に戻ると、夏未が祐里にモノマネ指南を行っていた

「何がやりたいんだコラ、紙面飾ってコラ、何がやりたいのか、はっきり言ってやれコラ!
噛みつきたいのか、噛みつきたくないのか、どっちなんだ!どっちなんだよ、コラ!」
「何がコラじゃコラ、バカヤロー!って、祐里。あなた滑舌よすぎてそれじゃ駄目よ」

何でコラコラ問答...と思いながら、竜也が席に着くとすぐに一息ついた
「"de 稜西”のみなさま、目を覚ましてくださーい」

飛行機ポーズで威嚇すると、祐里と夏未はモノマネ指南を終了した
「話は終わったの?」
祐里が聞いたので、竜也は小さく頷いた

「...種ちゃん大丈夫かな?」
夏未が呟くと、祐里は苦笑しながら首を振った
「夏未。貴女は大丈夫なの?」

夏未は笑って頷いた
「動かない分には大丈夫。光にテーピングまでしてもらったしね」

3人がその後何気ない雑談をしていると、外に人の気配がした
一瞬身構えた3人だったが、人間”慣れ”というものは恐ろしいもので竜也と祐里は特に気にしない様子に変わったので夏未はちょっと驚いた様子だった

「...大丈夫なの。誰か外にいるよ?」
夏未が小声で言ったが、竜也と祐里は涼しい顔でZARDの名曲について語り合っていた

やがてすぐ玄関のドアが開いた
夏未は怯えたが、相変わらず竜也と祐里は「誰かが待ってる」がいいだの、「来年の夏も」がいいので盛り上がっている

ややあって、直が「たらいも」と普通に入って来るものだから、夏未は驚いた表情を浮かべた
竜也と祐里はそれに見向きもせずに「おかえろー」と返すものだから、さらに驚愕の表情に変わった

「よかった。河辺と合流出来てたか」
直はちょっと疲れた表情だったが、夏未を見て安堵したような笑みを浮かべた



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