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「酒樹、疲れたでしょ。座って座って。今うどん作って来るから」
祐里はそう言うと台所に立って行った

「お疲れ。遅かったな」
竜也が言って、ポカリを差し出すと直はそれを受け取って多めに一口飲んだ
「まあな。さすがに疲れた」

やがて光も居間にやってきた
「直ちゃん、おかえり」と声をかけたので、直はポカリを飲みながら右手を上げて答えた

「そうだ。夏未、痛み止め飲んだ?」
夏未はそれに対して首を振ったので、光は薬を差し出した

「ほら、これ飲んで。そして1回休んできたほういいよ」
光がそう促したので、夏未も素直にそれに従うと薬を飲んで別室へ向かっていった

ちょっと足を引きずってる様子に気づいた直が
「大丈夫か?」と声をかけたが、夏未は笑顔で頷いて去って行った

祐里がうどんを持ってきたので、直は勢いよく食べ始めた
「ポカリとうどんってのも乙なもんだな」
直は美味そうにうどんを一気に食べ終わった

食べ終わって一息をついた直は、しみじみと首を振った
「はは、まさか尾行されるとは思わなかったぜ。巻くのに時間かかっちまった」

それを聞いて3人はそれぞれ驚いた表情を浮かべた。それに気づいて直は小さく頷いた
「攻撃してくるわけでもなく、ただただ尾行られた。気味悪かったわ」

黙って聞いていた光は首を傾げていたが、やがて何かを思いついたように小さく頷いてから言った
「ねえ直ちゃん、誰かは分かったの?」
それに対してすぐに直は頷いた
「播磨だな。播磨安比奈。昨日は言わなかったが、昨日俺に発砲してきたのもあいつだと思う」
そう言って、小さく首を振った
「そのくせ今日は尾行だからな。あいつ、俺がおまえらと一緒に居るの見抜いてたんじゃないか?」

光はそれを聞いてまた頷いた
「そうね。きっとそう。目的はわからないけれど」

播磨安比奈と聞いて、祐里は少し困惑の表情を浮かべて「まさかね」と小さく呟いた
それに気づいた竜也が、「どうかしたか?」と聞くと、ちょっとねと祐里が思わせぶりな態度を取った
光がそれに対して、「言いなさい」と促したので祐里は小さく笑った

「何でもないことだよ。去年ちょっとあっただけ」
祐里は前置きしてから続けた
「去年種ちゃん入院するの決まった時にさ、播磨が私をボーカルにしない?って言ってきたことがあったのね
速攻で断ったんだけど。もしかしたらそれ恨んでるのかなーって思っただけ。1年も前の話だし、それはないよね」

竜也と直はそれを聞いて、さすがにそれはないなと小さく頷いていたが光の反応は違った
一瞬険しい表情に変わって、すぐいつものクールな表情に戻ったが
「ありえるんだよね。この危機的状況下に置かれてるわけで。ちょっとした恨みが募るってのはないとは言えないわ」

そういうものなのか、と竜也は感心した
そもそもあまりにものんびり過ごしているせいで、危機的状況ってのを忘れかけてるせいもあったが
つか考えてみれば、ついさっき”殺し合い”を2度やってたんだったわ

それから4人は、今日あったことの”報告会”を行った
竜也たちが夏未を発見したこと、竹田彩乃とやりあったこと。渡辺享明に遭遇して、ヨシハチが助けてくれたこと
直が後藤と会ってからの豊田愛季に遭遇してのやり取り、それから播磨安比奈の尾行を振り切った話

「そもそも何で播磨断ったん? 歌下手なわけじゃないんだろ?」
竜也が聞くと、祐里はあははと声を出して笑った

「そんなの関係ないわ。私は光と梨華、そして竜とやりたかっただけだから」
言ってから、チラッと直のほうを見て頷いた
「まあ、竜が誘わなかったら酒樹はいなかったね」
祐里は言って、またあははと笑った

「ひっでぇ」
直はそう言って笑ってから光のほうを見た
「水木はどうだったん? ボーカル杉浦とか、俺まで加入するとかさ」

黙ってやり取りをニコニコしながら聞いていた光は、直からそう振られると何度も頷いた
「簡単じゃない。祐里が言いだしたことよ? 何を言っても無駄よ」
きっぱり断言したので、祐里はなにそれと言ってまた笑った

「播磨さんか。確かに一緒にやるイメージは沸かないかもね。女子プロレスのユニットになっちゃうかも」
さりげなく光が酷い事を言ったので、3人は顔を見合わせてから笑った

「なあ酒樹、水木を怒らせるのはやめとこうな」
竜也がこっそり呟くと、直はすぐに頷いた
「当たり前だ。ぼろくそに言われるのがオチだ」

そのやり取りに気づいた祐里が、こっそり何かを光に耳打ちした
聞いて、光は笑いながら頷いていた

「そういうこと言うんだ。じゃあ竜ちゃん、今日もあなたは祐里と一緒の部屋で寝ること。以上」
光は不敵に笑ってそう言ったので、竜也と直は思わず爆笑してしまった
祐里が「なんでやねん」と突っ込んだが、光はどこ吹く風。「決定事項だからね」

「そいや順調なのか?」
唐突に竜也が光に振ると、光は右手の親指を立ててウインクした
「ノープラモデル」

どうやら光もテンションがおかしくなっているようだった
見慣れない光の様子に祐里がちょっと首を傾げていたが、それに気づいた光は小さく笑った
「大丈夫だから。安心して」

光が複数人いるような錯覚を受けるほど、色々な表情を出しているが竜也は気にしないことにした
いろいろありすぎたし、これからも大変だから疲れてるんだろうと思った
しかし祐里は違ったようで、光の額に手を乗せて「熱はないよね」と普通に心配していた

光は小さく笑いながらされるがままにしていたが、やがて「さすがに私もちょっと疲れたかも」
と言って、何度か首を振ったあと肩を回す仕草をした

「少し寝てくれば?」
祐里が言うと、光は「ううん、大丈夫。ありがと」とすぐにそれを制したが、ちょっと考える仕草をして頷いた

「そうだ。祐里、ちょっと向こうの部屋に来てくれる? ちょっと手伝って欲しいことあるんだよね」
光がそう言うと、祐里は即座に頷いた
「私に出来ることなんてあるの?」
言いつつ、満更でもない表情を浮かべていた

やがて二人は出て行き、男子2人が取り残される形にになった
直後、直が急に真面目な表情になって竜也をまっすぐに見据えた

「なあ杉浦。お前とは一度ケリつけないと駄目だと思ってたんだよ」
言って、直は部屋の隅にある”何か”を見て不敵に笑った
それを受け、竜也も”何か”を見て同じようにニヤッと笑い返した
「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ」



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