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「っしゃー」

直はガッツポーズを作って竜也にアピールする
竜也はしかめっ面で何度も首を振る
二人はコントローラーを持って、TV画面に夢中であった

”3本勝負”と銘打って行われている、「PS4大決戦」

緒戦「ファイプロ」は竜也の完全勝利(バレンティア→デスティーノ→体固め)
2戦目「パワプロ」は逆に直の圧勝(竜也2-13直)で終わり
遂に最終決戦となったのは「ウイイレ」

イングランド(竜也)が前半5分にジェラードのロングシュートで先制したが、アルゼンチン(直)が徐々に反撃
前半終了間際にアグエロのゴールで追いつき、後半25分についにメッシ弾で勝ち越しを決めた

「まだや、まだ20分ある」
竜也は気合を入れ直すが、直はもう完全逃げ切り態勢に入っていた

「そいやタネキ大丈夫なのか?」
余裕綽々で直が聞くと、なかなか攻め手がなく苦戦している竜也は
「熱は下がってるって水木が言ってた」
と答え、ランパードでミドルを狙うがポストに嫌われた

「おいおい、左と右のポストとクロスバーにも当てたから1点だろ」
竜也は某早野のようなセリフを吐くが、直はボールを繋いで逃げ切る気満々だった

「そいや前から疑問だったんだが」
残り5分を切ったところで、直が前置きした
竜也は聞きながらも最後のチャンスとばかりにに、「ケイン行け!」とドリブル突破を図った

「タネキさ、なんでタネキって呼んでるんだ?」
直が疑問をぶつけると同時、「おい、何で今のファウルだよ」とお手上げのポーズを取った

「っしゃ。これは貰っただろ」
竜也がニヤッと笑った。絶好の位置でのフリーキック。キッカーはもちろん...

直は無駄にあがいて壁を8人置いたが、竜也は無駄無駄とばかりにプレースした

「なんでタネキかって? それはな...」
ベッカムが軽く助走を取って、狙いすましたフリーキックを蹴る
ゴールは壁の上を超え、キーパーが必死に飛ぶのをあざ笑うかのようにゴールのサイドネットに突き刺さった

「さすがベッカム様や。同点じゃ同点」
竜也がクリスティアーノ・ロナウドばりのガッツポーズを見せると、直はがっくりと肩を落とした

「誰がタネキじゃ。つか、あんたたちうるさいって」
竜也と直が振り返ると、そこには呆れ顔で二人を見つめる梨華の姿があった

試合は2−2のドローで終了した

「この決着は...そうだな、函館に戻ってからでどうだ」
竜也が提案すると、直は笑って頷いた
「だな。次は全部俺が勝つ」

そこで竜也が呼んで、立ったままの梨華を横に座らせた
「なあ酒樹、もう1試合どうよ?」
言うと、竜也はコントローラーを梨華に渡した

戸惑う直を尻目に、梨華は「久々だなー。杉浦、どこ使えばいい?」とやる気満々な様子を見せた

「いやいいんだけどさ、そもそも種崎はもうよくなったのか?」
直が聞くと、梨華はいつもの無表情で頷いた。「うん、全然平気。気分良くなったよ」

梨華は何となくナポリ。直はバルサで応戦した
キックオフ早々直が怒涛の攻めでいきなり先制、そして10分に2点目を決める

「...なるほどね。もうわかったよ」
そこで梨華の目の色が変わった

その後はむごいものだった。直はもう何も打つ手がないようにフルボッコ状態
前半終了2-6という惨状

「これが理由。種崎姐貴、略してタネキというわけ」
竜也が笑いながらそう言ったので、直はもう苦笑するしかなかった

「最初のは何だったん?」
直が聞くと、梨華は涼しい顔で小さく頷いた

「どういう攻め手で来るのかなって。でパターン分かったからもういいかーみたいな」
直は参りましたとばかりにコントローラーを置いた

「ちなみにウイイレだけじゃないからな。パワプロのほうがよっぽど鬼だから」
竜也が言うと、梨華はえっへんとばかりに胸を張った

「てっきりスマホゲームだけかと思ってたわ。達人じゃん」
直が感心したように言うと、梨華は小さく首を振った
「全然だよ。シミュレーションだと杉浦に勝てないし。乙女ゲーなら祐里だしね」

梨華はそう呟くと、水を一口飲んだ
いつもの梨華に戻っているのを感じで、竜也は内心安堵した

やがて祐里が居間に戻ってきた
「種ちゃん、顔色よくなったんじゃない?」

祐里が嬉しそうに声をかけると、梨華は丁寧に頭を下げた
「ご迷惑をおかけしました」
そう言ってから、改めて竜也のほうに向き直った

「杉浦には大変お世話になりました。なんとお礼を言ってよいのか」
わざとらしく甲斐甲斐しく頭を下げる梨華に対して、竜也は「であるか」と大仰な態度でそれに応えてから小さく笑って右手を振った
「友人が困ってたら助けるのは普通だろ。全てはDESTINO.」

それで4人はまた笑う。いつもの楽しい空間だった

「そいや水木の用事済んだん?」
おもむろに竜也が聞くと、祐里は即座に頷いた
「まあね。ぶっちゃけ私に出来ることなんてたかが知れてるしさ」
そう言ってから、祐里は何度か首を振った
「正直、光も相当疲れてるんだろうね。わざわざ私に頼むんだもん。普段ならありえないっしょ」

言われれば、と竜也は思った
知り合って1年以上経つけれども、光が祐里にお願いをしてるのは初めて見たかも知れない
よっぽどの事態なんだろうなぁと一人で納得していた

「ちょっとトイレ行ってくるね」
梨華が中座してすぐ、祐里が何かを発見した
「ねえ、マイクあるよ。マイク。晩御飯の後、カラオケ大会しよ」

唐突な提案に竜也と直は顔を見合わせて苦笑いした
なあ、いちおう俺たち”プログラム”に置かれている立場なんだが...

直後、梨華が血相を変えて居間に戻ってきた
「ねえ、ちょっと大変...光が..光が...」
今にも泣きだしそうな表情で訴える梨華に、竜也たち3人は動揺の色を隠せない様子
「...おい、どうしたんだ?」
直が梨華に聞くと、梨華は一瞬でいつもの無表情に戻ってこう言った

「寝落ちしてたから毛布かけてきてあげた」

竜也は思わずずっこけそうになり、祐里は呆れた表情を浮かべて梨華の後頭部を軽く叩いた


(残り15人)