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「おはようございます」(小声)
竜也と祐里は夏未の部屋の前に来ていた

直も少し仮眠取ると言って部屋を出て行った後、晩御飯の支度は梨華がすると言ったので暇を持て余した祐里が提案したのは
”寝起きドッキリ”
いや、寝起きとかまずいだろと言った竜也の意見は却下され、強制連行されて今に至っている

ノリノリの祐里に対し、明らかに及び腰の竜也という対照的な二人
「ほら、早く行きなさい」
嫌がる竜也を急かし、祐里は部屋のドアを開けさせた

夏未は普通に寝ていた
祐里が小声で、「ほら早くバズーカ撃ちなさい」と無茶ぶりをしたがそもそも早朝ではない(ツッコミどころが違う)
すぐに部屋の外に出ようとする竜也を祐里は無理やり捕まえ、夏未の布団に入れようとした
竜也が必死に抵抗していると、その左腕を寝ている夏未が急に掴んできたので思わず仰け反って驚いた

「どうして? どうして一緒に寝てくれないの?」
虚ろな表情で竜也に迫る夏未を見て、腰が抜けて動けない竜也とそれを呆然として見つめる祐里
その祐里に気づいたのか、夏未は今度は祐里のほうに詰め寄りながらきっと睨みつけた
「祐里がいるから? そうなのね。絶対に許さないから」

Tシャツ姿の夏未を見て、竜也は内心”でっっっっっ”と思っていたが、状況はそれ以上に修羅場と化していた

「どうして竜くんを私に譲ってくれないの? 好きでもないくせに」
夏未が挑発すると、祐里の表情も普段見せない厳しいものに変わった
「ふざけんじゃないわよ。何も知らないくせに」
どうしていいのかわからず、呆然と見つめるしかできない竜也に気づいた2人は一斉に振り返った

「何か言いなさいよ!」

午前中に竹田や渡辺に出会った時より、よっぽど怖かったかも知れない
つかいつからこんなモテキャラになったん?と思う余裕すらないくらいの刹那の修羅場


そんな時だった
ふいに夏未と祐里の表情がいつものにこやかなものに変わった
夏未は布団から何かを取り出すと、それを竜也に見せた

”ドッキリ大成功”
プラカードにはそう書かれていた。つかお前ら、いつ仕込んでたんだよ...

「びっくりした?」
祐里が聞くと、竜也は唖然とした表情のまま開いた口が塞がらない状態だったので笑いながら夏未のほうを見て頷いた
「ごめんね。祐里がやろう言うから断れなかった」

夏未は祐里のほうを見ながらちらっと笑っていた
もう好きにしてくれという感じで、竜也は完全に気の抜けた表情を浮かべていた

「ほら行くよ。夏未も早く着替えておいでね」
祐里は座り込んでいた竜也を立たせて、そう促した
笑いながらその様子を見ていた夏未は、「いいのよ。着替え見てから行っても」

あまりにも魅力的な提案だったので、「じゃあ手伝おうか」
竜也は無意識にそう言ったので、祐里が頭を軽く叩いて強制連行していった

祐里と竜也が居間に戻ってしばらくすると、着替えを終えた夏未がやってきた
その後に直も戻り、やや経ってからとても眠そうな顔をして光も到着した

「ごめんなさい。熟睡しちゃってた」
光が申し訳なさそうに言ったが、当然のように誰も責め立てる人はいなかった

間もなく梨華による晩御飯の支度が終わったので、各自それぞれテーブルに運んだ
”和”という晩御飯が並び、食べ始めようとした瞬間に「18時の放送」が始まった

12~18時まで誰一人『死亡』していないことを激怒している超野の罵声と共に放送は終わっていた
当面の間禁止エリアに引っかかることもないようで、今のところは明日無事に”廃墟”へ向かえそうな雰囲気であった

放送が終わったので、各自食事を開始した
それぞれが梨華の料理の腕を絶賛する、絶妙な味付けだった

”俺の嫁に来ないか”
直が歌いながら『告白』すると、梨華は笑みを浮かべた顔で「日本代表に選ばれたら考えてあげる」とつれない返事
ならば、と竜也も「お婿さんにしてください」と続くと、梨華は瞬時に真顔に戻って「それは祐里に言いなさい」と即答したので思わず苦笑した

とてもいい雰囲気の中、夏未が急に言った
「ねえ、みんな昔憧れてた有名人っている?」
それを受け、それぞれ思案顔を浮かべたがやがて竜也が最初に口を開いた

「ZARDの坂井泉水さん。美人だし歌うまいし。憧れたわ」
それを聞いて祐里が微笑みながら頷いた
「言ってた、言ってた。おかげで私も曲覚えさせられたし」

「で、そんな祐里は誰なの?」
梨華が聞くと、祐里は照れ臭そうに俯きながら小声で言った
「鳥谷敬選手」

うん、知ってた。と竜也は心の中で頷いた。阪神ファンだしな、と。間違えても33-4とか揶揄ってはいけないんだぜ

その後もそれぞれ発表し合い、なかなか意外なメンバーや個性的な人間が上がった

「なんか修学旅行みたいだね」
光がそう呟いた
順当なら10月に行く予定だったそれは、もう行くことはないだろうと思うと竜也はちょっと悲しくなった

竜也が一人物思いに耽っていると、直寄って来てが小声で囁いてきた
「やばいかもだ。レーザーに反応がある。徐々に近づいてきてる」

いや、それみんなに言えよと竜也は思ったが、脅かしたくないのかとも思ったのでとりあえず光を手招きして呼んだ
「どうしたの?」
と寄ってきた光に、その旨を伝えると光は「わかった」と言って頷いた

「”敵”が迫ってる。逃げることにするわ」
光がそう言うと、祐里、梨華、夏未の目に緊張の色が走った

そしてすぐ、光は直と竜也に荷物をまとめるように指示を出す
2階の電気だけつけて、1階は全て消灯
暗闇の居間に全員が揃ったのを確認すると、光が指示を出した

「6人で逃げるのはさすがに目立つので2手に分かれるわよ。私、梨華、酒樹くんはベランダから。
祐里、夏未、竜ちゃんは裏口から脱出。そうね、集合場所はここからちょっと離れた部落にも住宅街があるからそこにしましょう
直ちゃんがレーザー持ってるから、竜ちゃんが潜む場所を見つけてくれれば合流出来るわね」

そこまで言うと、光は竜也に何やらメモを2つ手渡してきた
「右手のほうは、そうね12時まで合流出来なかったら開いて。それで落ち合えるようにするから。
もう1個のほうは...明日の17時まで合流出来なかった場合に備えて。じゃあ、祐里と夏未をお願いね」

直は遠慮する梨華を無理やり背負うと、光と一緒に出て行った
それを確認して、竜也が「俺らも行くぞ」と促した
夏未が「大丈夫だから」と言ったので任せてみたが、やはり足が辛そうだったので竜也が背負うことにした
祐里は荷物3つを持つ羽目になったが、「任せなさい」と小さく笑っていた

家から出てすぐ、2階に向けて銃弾や火炎瓶のようなものが投じられていた
燃え上がる家を遠目で見つつ、「危機一髪やん...」と竜也は思わず呟いていた