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「殺った?」

播磨安比奈は燃え盛る家を見て、歓喜の声を上げたいくらいだった
横には満足げに頷く千原嵩の姿も

直の尾行に失敗したが、その路上で空腹でぶっ倒れていた千原に食料を恵んだところまるで神様のように崇められた播磨
そこで一計を案じたのだった

「ねえ千原くん、”de 稜西”の女子ってどう思う?」
パンをむさぼり食べる千原に播磨がそう尋ねると、舌なめずりをしながら千原は大きく頷いた

「ええ女やん、どいつもこいつも。進藤は薄っすいし、種崎はチンチクリンやけど。水木と河辺は食べ頃よな」
期待した通りの返事だったので、播磨は内心頷いた

「ねえ、そいつらをヤっちゃう気はない?」
播磨がそう言うと、千原の目は怪しく輝いた

「...どういうことだ?」
明らかに乗り気の千原に対し、播磨は”de 稜西”は6人で行動している。襲撃すればやり放題だよと悪魔の囁き

「話は分かったが。どこにいるかわからないんじゃ無理だろ」
千原がそう言うと、播磨はちっちっと小さく人差し指を振った

「6人で動いてるのよ。家にいるのは目に見えてるじゃない。きっとあそこの住宅街よ」


そして夜になってから住宅街に来てみたところ、案の定2階だけに明かりがついている家を発見したという次第
すぐにでも襲撃しようとする千原を
「ちょっと待って。水木光がいる。罠があったらまずい」
播磨がそう言ったので、ゆっくり近づいてからの攻撃だった

「どれ、早く出て来いお姉ちゃんたち。おじちゃんがひん剥いてやるぜ」
手ぐすね引いて待ちわびている千原だったが、人っ子一人出てくる気配がなかった
それで播磨も首を傾げている。おかしい。即死するほどの威力はなかったはず。というより悲鳴一つないなんて

それに気づいたようで、千原は播磨に食って掛かった
「おい、話が違うぞ。全然出てこないじゃねーか」

今にも暴れだしそうな千原を播磨は必死に宥めると、「進藤祐里、出て来い!」と大声で叫んだ

その叫び声はわりと距離を稼いで逃げていた竜也たちにもはっきりと聞こえた
挑発に乗りそうな祐里を竜也と夏未が抑え、そのまま立ち去ろうとしたがまたも声が届いてきた

「いい加減にしろよ、このクソアマ。どんだけ人をバカにすれば気が済むんだ」

やっすい挑発やなぁと竜也は思っていたが、祐里はわかりやすいくらいキレていた
祐里が今にも叫びかえしそうになったのを、竜也に背負われている夏未が手を伸ばしてその口を塞いだ
「ダメ、ほっときなって」
夏未が小声で注意するが、祐里はどうにも収まらない様子だった

「ブスビッチが! 黙って私をボーカルにすればよかったんだよ。それどころか酒樹までメンバーに入れやがって
自分で振っといていいご身分だこと」

竜也と夏未は思わず失笑してしまっていた。私怨にもほどがあると
しかしそこで一瞬の油断が生じていた

その隙に祐里が負けじと叫びかえしていた
「あらら、ごめんなさいね。けどね、あたしたちのバンドはクラッシュギャルズでもビューティペアでもないんだよね
女子プロの入門テストでも受けたらいかがかしら。それじゃごきげんよう」

言い終えて満足げな祐里の頭を竜也は軽く小突くと、「早く行くぞ。。こっち」
さっきより駆け足で逃亡を再開した


まさかの”口撃”に播磨は怒り狂った

「おい、どうする。わりと距離は遠かったぞ」
千原がそう言ったが、播磨は声が聴こえた方角へ発砲を始めた
「無駄だ、それより追ったほうが早いだろ」

完全に狂乱してしまった播磨にはその声が届かなかった
業を煮やして千原が一人で声のほうに向かおうとすると、播磨はその千原に銃口を突き付けた
「どこ行く気。裏切るの?」
「馬鹿かお前は。進藤追わなくていいのかよ」
千原は播磨の肩を掴むと、何度か揺すった

それでようやく我に返ったのか、「あ、そうだった。あのクソアマ」
言うが早いか、播磨はようやく追い始めた。それを見て千原もあとを続いた


「ったく、わざわざケンカ売るな。せっかくすんなり逃げれただろうに」
息絶え絶えにになりながら竜也が言うと、祐里はてへという表情を浮かべた

「ごめん、河辺。一回降りてもらっていい?」
そう言って竜也が夏未を下ろすと、何度か大きく伸びをした

「...私、重かった?」
夏未が心配そうに聞くと、竜也はすぐに首を振った

「違うって。ただ、だいぶ腰がよろしくない感じがする」
竜也は不安を抱えている腰痛が爆発しかねない気配を察したのだった
さすがにここで腰痛を再発させてしまっては、祐里と夏未を守ることはできない

「河辺、ゆっくりでいい。大丈夫、結構距離はあるし暗闇だからそうは見えないはず」
竜也は夏未に肩を貸した
そして3人は暗闇に紛れ、直たちとの合流を目指した


「おい、見当たらねーぞ」

千原と播磨は怒り心頭に達していたが、祐里の影一つ見当たらなかった
というのも、祐里がわざとらしく落としていったペットボトルにまんまと引っかかって、見当違いの方向に追い込まれたせいなのだが
当の2人は気づくはずもなかった

「なんだよ、ここ。行き止まりじゃねーか」
千原が吠えたが、もう時すでに遅しだった
播磨も目を血走らせているが、人っ子一人見当たらない状況に怒りを隠しきれない

そんな時だった
夜空に緑と赤の光線が現れ、それはどんどん千原と播磨のほうへ近づいてきていた

「すべて、この俺が飲み込んでやるからな。よく覚えとけ」
声が夜空に反響したので、千原と播磨は警戒を強めた

「オイ! 何が正義でよ、誰が本物で、誰が頂点か、わかったか、この野郎!」

声だけが聞こえ、姿はまるで見えないこの状況は不気味そのものであった
千原と播磨は目で合図して、その場から逃げることを決めた

ここにいてもいいことはない。まずは逃げて、それから進藤祐里を殺る
播磨はそう思っていた

「おまえらよく聞いとけよオイ! この俺がよ、プログラムの歴史なんてな、潰してやるよ。よく覚えとけ〜
Everything is EVIL! It’s real!」
目の前に閃光が走ったと同時、播磨の首は吹き飛んだ
鮮血が迸り、千原はパニックから恐慌状態になった

銃を闇雲に撃とうとしたが、そこはタマ切れです。ハイ残念

「テメェに新しいトラウマを刻み込んでやる! おまえは終わりだ」
声が届くと同時、千原の当面(永遠に)使う予定のない粗末な股間に激痛が走った
思わず屈みこんでしまった千原の目の前に現れたのは、狂気と化している渡辺の姿だった

「お前は負けたんだよ。完全に負けたんだよ!オイ、お前は見苦しいな。なあ、オイ!」
いつの間にか千原の首にはパイプ椅子が巻かれ、それに向けて渡辺は手に持っていたパイプ椅子でフルスイングした
首に強い衝撃が走ったと同時、今度は違う衝撃も走った
いつものように鮮血が迸り、千原の首も飛んで行った


鎌を持って不気味な笑みを浮かべながら去ろうとしている渡辺の前に、一人の男が立ちはだかった

「渡辺享明、帰って来いと。俺が戻してやりますよ。今のままで言いたいこと言えてるのか? すべては渡辺享明だ」

どこから持ってきたのか、大きな数珠を手にした後藤和興が仁王立ちしていた