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竜也はいつものように登校していた
なぜか服装が白スーツにマント姿だったのだが、特に気にすることはなかった

教室へ入るとすぐ、京葉ジェルディのユニを着た井場安理が緑のグラブを手入れしている姿が目に入った

「おはー」
竜也が軽く声をかけると、井場はグラブを左手に嵌めてそれを上に掲げてみせた
「やあ杉浦、おはよう。”ロクナイ”はちゃんとログインしたのかい?」

それを受け、竜也は笑って右手を上げた

竜也が席に着くとすぐ、今度は隣の席の岡田が話しかけてきた
相変わらずいかつい風貌ながら、どこか親しみやすさを覚える雰囲気はわりと嫌いではない

「杉浦おはよう」
「あぁ岡田、おはよう。親のコネを利した高額接待が実って、ようやくデートに漕ぎつけたんだって?」

竜也が笑って言うと、岡田は急に真顔になって凄んでみせた
「君のような勘のいい奴は嫌いだよ。バレては仕方ない、処されてもらうぞ。貴様は知りすぎた...って、オイ」
キレのいい乗りツッコミだったので竜也は思わず笑ってしまい、それを見て岡田も笑った

「しかし女性蔑視発言はさすがに引いたぞ。俺も庇い切れない」
再び竜也が言うと、岡田は耳をすませるポーズを取ってみせてから返した
「え、なんだって? 余は難聴なのじゃ。もう一度申してみよってオイ、また誰かと勘違いしとりゃせんか?」

いつからこんな親しかったっけというような、どこか違和感を覚えつつ竜也は岡田と談笑していた

すると今度は教室に播磨安比奈が入ってきた
入って来るなり、播磨は竜也に向かって
「あなた、どうしてエフフォーリアをもっと推してくれなかったの? 買いそびれたじゃない」
そう言って、にこやかに笑いながら自分の座席へ移って行った

あぁ、そいや”予想家はりあい”ってやってたな。何度かレス付けてたことあったっけ
竜也は内心でそう思いつつ、やはりまた違和感を覚えた

何だろう、何かが違う

竜也と岡田が話していると、そこに井場も寄ってきた

「何の話だい。岡田と杉浦は、ロクナイの千代ちゃんのURを引いた話か?」
唐突すぎな話題転換に竜也は笑って手を振って否定したが、岡田は井場を睨みつけるように目を見据えた

「貴様、あの超ウルトラスーパーレアを引いたのか。絶対に許さん、処してやる」
言うが早いか、”荒ぶる鷹のポーズ”で井場を威嚇した

井場は悲鳴を上げて逃げ、岡田はそれを笑いながら追いかける
ありふれた教室の光景だった
その他の生徒もそれを全然気にした様子ももせず、各々好きなような服装で自分の席についていた

そこで竜也はようやく気付いた
そうか、”de 稜西”のメンバー。俺のパレハが誰一人いないということに思い当たった

井場を追い回すのに飽きたのか、岡田が席に戻ってきたので竜也は再び話しかけた
「なあ進藤遅くね?」
普通に聞いただけだったのだが、岡田は不思議そうな表情を浮かべて首を傾げた

「...なあ進藤って誰だ? どのラノベのキャラだっけ」
予想外の返答に竜也は戸惑いの表情を隠せない。おい、どういうことだってばよ

竜也はそのまま井場の元へ行くと、「進藤見なかったか?」と訊いた
しかし井場の反応も岡田と同様のものだった

「進藤? またロクナイの新しい敵キャラが実装されたのかい。アマツキもタチが悪いね」

竜也は完全に状況が呑み込めなかった
なぜだ。なぜ進藤の存在が消えている...?

竜也が席に戻って呆然としていると、高宮裕太郎がふらーっと教室に入ってきた
前の座席に座り、裕太郎は「よう杉浦ちゃん、おはよう」と普段通りの調子で挨拶をしてきた

呆然として竜也が返事を出来ないでいると、裕太郎はいつものニヒルな笑みを浮かべた
「杉浦ちゃん、悩み事かい? 俺でよかったら聞いてやるよ。これマジ」

裕太郎がそう言ったので、竜也は首を振りながら小さく呟いた

「なあ裕太郎、進藤や水木、タネキ、酒樹を見てないか?」
竜也がそう聞くと、裕太郎の顔から急に笑みが消えた

「杉浦ちゃん。まだこっちの世界に来るのは早かったんじゃねえか? さっさと戻っちまえよ、この野郎」

言うが早いか、裕太郎は竜也を担ぎ上げた
カナディアン・バックブリーカーの体勢に取ると、そのままフェイスバスターに持って行った


竜也は強い衝撃を受けたと思った瞬間...


目の前は真っ暗だった
体にはいつもと違う重さがかかっていて、腕を動かすのすら不自由な状態
目だけを動かして見ると、祐里が自分の体に覆い被さって泣き崩れていて、その横には夏未も俯いて座り込んでいる

竜也はようやく状況が呑み込めてきた
どうやらあの世に行きかけてたっぽいな、と

”黄泉還りの東京ピンプス”のお陰で戻って来れたらしい

ようやく動くようになった右手を動かし、竜也は祐里の脇腹をつついた
驚く祐里の頭を、逆の左手で撫でながら「ただいま」と小さな声で呟いた

祐里は驚きと嬉しさのあいまった複雑な表情を浮かべてながら、「夏未、夏未。竜が...竜が!」と呼んだ
夏未はそれを受けこちらを振り向き、それに気づいて喜びの表情を浮かべた

「竜...死んじゃったのかと思った...」
祐里がまた涙目になりながら言うと、竜也は祐里の首元に手をやりながら小さく頷いた
「ごめんな、苦しかっただろ。首が真っ赤になってる」

祐里はそれを聞いてちらっと笑った
「あんたのお陰だよ。ネックレスがあったから、締めきれなかったみたい...」

竜也はそこで大きく息を吐いた。頭は多少ガンガンするが、とりあえずは無事っぽい
今度こそちゃんと2人を守らなきゃな、と内心強く決意した

”Hello, my soulmate 君のすんだ瞳に ふるえて挑む この僕の姿はどう映るのだろうか?
銃声は響き争いは続いても遠い空の下と叫ぶ
いつの日か僕に全てを癒せるような歌を作る力をくれ…
You're my precious…
Everything must pass oh oh oh”

竜也が小さく口ずさむと、祐里は竜也にデコピンをしてきた
「バカ。カッコつけてんじゃないわよ」
それを見ながら夏未も笑いながら頷いていた
「キザすぎるよ...ホント」