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「なあ、今何時だ?」

祐里は相変わらず竜也にしがみついたままだったので、竜也は夏未に聞いた
夏未は腕時計に目をやると、「10時半だよ」と答える

10時半か。ちょっと早いけど、仕方ないかな

竜也はそう思うと、祐里に「悪い。もう大丈夫だからちょっと離れてくれないか」
苦笑しながらそう言うと、祐里は真っ赤になった目を擦りながら、ちょっと拗ねたように口を尖らせた

祐里は渋々離れると、「竜。貸しだからね」とそっぽを向いて言い放った
それを受けて竜也は苦笑した

「わかった。濃厚辛味噌ラーメンご馳走する」
そう答えると、間髪入れずに夏未が
「半チャーハンもつけてね」と返してきたので、竜也と祐里はそれぞれ顔を見合わせて笑った

ややあってから、竜也はズボンの左ポケットに手をやってメモを取り出した
光から貰った小さな紙切れには、「こめいちご」とだけ書かれていた

竜也は一瞬何だかわからなかったので、祐里と夏未を手招きしてそのメモを見せた
祐里は全然わからなかったようで首を傾げたっきりだったが、夏未はすぐに頷いた
そして自分のスカートのポケットに手をやろうとして、やがて首を振った

「そうだった。私スマホ盗まれたんだったよ...」
夏未が項垂れたので、竜也は尻ポケットからスマホを取り出すと夏未に手渡した

「それでよかったら使ってくれ」
竜也に手渡されたスマホを受け取ると、夏未はすぐに通話画面にしてから『*15』と打ってそれを竜也に戻した

「多分それで大丈夫だよ」
夏未は自信満々に頷いていた。竜也がスマホに耳を傾けると、すぐに「もしもし。どうしたの?」と光の声が聞こえてきたのでちょっと驚いた

「竜ちゃん? まだ12時には早いわよ」
光のトーンは笑い声だったので、竜也はほっと一安心

そして今まで起きた状況と現在の状態を説明すると、ちょっと間があってから光は
「わかったわ。で、今はどこにいるかわかる? なんか目印みたいなのあったら教えて」

竜也はそれを祐里と夏未に伝えると、すぐに夏未が「公園。sueno公園って書いてあったよ」
そう言ってきたので、すぐにそれを光に伝えた

「了解。ちょっと嫌な場所ね。すぐに行くから待ってて」
すぐに通話は途切れた

それから竜也は、祐里と夏未に昏睡時に見ていた”夢”を語った
「裕太郎の”黄泉帰りの東京ピンプス”のお陰だわ。ガチで涅槃行くとこだった」
竜也がそう言うと、夏未は笑みを浮かべて頷いていた

「けど、よかった。戻ってきてくれて。じゃないと私、祐里を殺さないといけなかったんだよ」
夏未が嘘っぽく笑うと、竜也はぎょっとした表情で祐里のほうを見た
黙って聞いていた祐里は手を振って照れたように笑った

「んなわけないでしょ。言葉のあやよ」
そう言って祐里は大きく息を吐いてから小さな声で続けた
「けどね、ホント心配した。柄にもなく神様にお願いしちゃった」

それを聞いて、竜也は小さく十字を切ってみせた
「フォースと共にあらんことを。神様よりずっとマシさ」

祐里と夏未は顔を見合わせ、やや置いてから小さく笑った


やがて光と梨華、直がやや駆け足でやってきたのを見て3人は安堵した

「お待たせ。お兄ちゃん、生きてたか?」
直が軽口を叩いたので、竜也は笑いながら直の頭を軽く叩いた
「なんとかな。我ながら石頭でよかった」

一方光は、祐里の首の跡を見て驚いた表情を浮かべていた
「痛そうだけど、大丈夫? 竜ちゃん、DVとは見損なったわ」
説明済みなのに見当違いのことを言ってきたので、竜也と祐里は顔を見合わせて笑った

梨華は夏未に手を貸していた
「立てる?」と聞かれ、「大丈夫だよ」と夏未が返して問題なく立てていた

「さて、お兄さんはどうだ。立てるか?」
直が促してから肩を貸して、竜也は立ち上がった
一瞬フラーっと眩暈がしたが、大丈夫。何も問題はなかった

「大丈夫そうね。それじゃ急ぎましょう」
光が言って、6人は公園から離れることにした

どうやら12時にはこの辺は禁止エリアになり、周辺はほとんどがすでに禁止エリア
かなり危ないとこだったんだよ、と光は言っていた
怪我人3人、病み上がり1人を含めた6人なので、歩行ペースは一向に上がらなかったが無事に危険な区域は抜けたようだった


目の前には寂れた住宅街が並んでいる

「言い方悪いけど、もうだいぶ人数少ないと思うから。普通に家に入っても大丈夫よ」
光がそう促し、手頃な目の前の家に全員で入ることにした

寂れた場所に似つかわしくない、その新しい家は新築の臭いが鼻についた

「へえ、いい家ね。私ここにずっと住もうかな」
涼しい顔で梨華がそう言った
この子の場合、どこまで本気でどこまで冗談なのかが表情でわからないのが面白いんだよね、と竜也は内心思っていた

居間に到着し、6人はそれぞれ一息ついた

「あなた、食事にする? ごはんにする? それとも...わ・た・し?」
夏未が満面の笑みを浮かべて竜也にそう言ったので、ちょっと照れながら
「喉が渇いた。コーラが飲みたい」と答えた

「ったく、ノリが悪いんだから。夏未が可哀想でしょ」
祐里はそう言って笑いながら、冷蔵庫を開けるとそこからコーラ(1.5L)を拝借してきた
コップを人数分テーブルに並べると、
「何でビール入ってないのかなー。せっかく飲みたかったのに」
心底残念そうに自分の年齢を考えない発言をする祐里に対し、光は冷ややかな視線を送った

「祐里。貴女ね、お酒飲むのは函館に戻ってからにしなさい」
光からまさかの見当違いの返答が来たので、竜也と直は思わず顔を見合わせて苦笑いを浮かべた

全員のコップにコーラが注ぎ終わったので、竜也がとりあえずという感じで”乾杯”の儀を行うことにした

「とりあえず、何とか全員無事ということで。友と明日のために...乾杯!」
立ち上がって音頭を取ると、6人はコップを合わせた
一口ずつ飲むと、いったんコップを置いてそれぞれに顔を見合わせて小さく頷いた

竜也がそこで右拳を大きく天に掲げてみせた
いつもの”アレ”をしようと要求すると、まずは祐里が笑ってそれに続いた

「仕方ないわね」
そう言いながら、いつもの無表情で梨華が続く

「心配してたけど、大丈夫みたいね」
光はちらっと笑いながら、同じように後に続いた

「おいおい。コーラ気が抜けちまうぞ」
そう言いながらも、直は楽しそうに笑ってさらに続いた

それを黙って見ていた夏未に対し、5人はみんなで視線を送った

「え? 私は...」
夏未がそう言うと、祐里が「何言ってるの。私たちは仲間でしょ」と笑顔でそう促した

それでもまだ躊躇している夏未に対し、竜也はわざとらしく目を大きく開いて見つめながら
「我々の新しいパレハを紹介しますよ。河辺夏未です」

竜也が大仰にそう言うと、梨華はちょっと笑いつつ夏未のほうを見て小さく頷いた
光と直も同じように夏未に促したので、夏未は戸惑いながらも右拳でその輪に加わった

「我々LOS INGOBERNABLES de 稜西は6人になりました。明日の活躍を楽しみにしててください...Adios」

竜也がそう大見得を切ると、祐里が笑って頷いた
「頼むわよ、プログラムの主役さん」