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「それじゃ明日の打ち合わせするわね」

光からミーティングの提案だったので、5人は一斉に光のほうを見た
のんびり談笑気分だったのを、急に引き締めるのはなかなか難しいものであった
竜也は頭の痛さこそ薄れてはいたが、どこかぼんやりしている感じ
それが疲れなのか、はたまた別の何かなのかわからないでいた

そんな竜也の様子に気づいたのか、祐里が「大丈夫?」と聞いてきたので竜也は小さく頷いた
まあ元々ボーっとしてるほうが好きだから、問題ないでしょと自分に言い聞かせて

「とは言っても、もう明日の夕方まですることないのよね。王様ゲームでもする?」
光が真顔でそう言った。どこまで本気でどこまで冗談なのか誰もわからないので、5人はそれぞれ戸惑ったような表情を浮かべる

そこでちょうど0時の放送が始まった
簡略化したのか、禁止エリアの発表だけ。死んだ生徒の発表を行わない斬新な放送に6人は不思議な感じがしていた

「ねえ、何で残り人数の発表しないんだろ」
梨華がそう言うと、さすがの光も首を傾げていた
「わかんない。絶対に意味はあると思うんだけど...」

光はしきりに首を傾げている
普段絶対に見せない光の思案顔に、思わず竜也はスマホのカメラを向けていた
それを祐里は呆れたようなジト目で見ていたが、夏未の反応は違った

「竜くん、いいの撮れたら送ってね。函館戻ってからでいいから」

思わぬリアクションが帰ってきたので、竜也は苦笑しながら頷いたが...やがてある疑問に思い当たったので聞いてみることにした

「なあ水木」
竜也が呼び掛けると、物思いをやめて光が向き直った

竜也が聞いたのはなぜ明日の午後なのか、そもそも逃げ出して問題はないのかという2点についてだった
黙って聞いていた光だったが、静かに頷いてからまたどこからか取り出したスケッチブックにさらさらと書き始めた

光の回答はわかりやすいものだった

明日の16時を過ぎると、ほとんどの兵士が帰路に着くらしい。校舎から、海上から何から何まで
よって逃亡が非常にしやすくなるということ
逃げ出した後についても、それも問題はないということ
既に世論が同情を通り越して、なぜプログラムを強行したんだという方向へ向かっている
逃亡が成功すれば、称賛こそされ、何かに狙われるということは絶対にないと言い切れるとの話だった

「さすがに、芸能界とかにデビューとかはやめておいたほうがいいと思うけどね。面白可笑しく見られるのがオチだから」
光はそこだけは自分の言葉で語った。あえて祐里のほうを見ながら笑顔でそう告げた

「わかってるよ」
祐里はちらっと笑って頷いた

「俺からもいいか?」
黙って聞いていた直が、ようやく口を開いた

”逃げ出すにしても、廃墟には誰かいるんだろ。そこはどうするんだ?”
直がスマホの画面で撃って、それを光に見せるとすぐに頷いて再びスケッチブックにペンを走らせた

「問題はそこなのよね。私には誰が待っているのかわからない」
光はそう口に出しながら、何かを書き終えたスケッチブックを直に見せた

私もそこだけが心配で豊田さんを囮に使ってみたんだけど、放送で名前が出ないからどうなったのかわからない
ただ別の隠し場所がある可能性があるから、そこを明日の朝から探ってみようと思う
だから心配しないで

竜也はそれを見て一人の男の顔が頭によぎった
吉田八郎、ヨシハチ。もしかしたら見殺しになってしまうんじゃないか、と

竜也は直と同じようにスマホ画面にそれを打ち込んで光に見せると、申し訳なさそうに頭を下げた
「もしそうなった場合は...そうなっちゃうね」

竜也はその返事を聞いて、思わず天を見上げた
2つも借りがあるんだぞ、と。そう思うと内心居た堪れない気持ちが強くなりすぎて、思わず表情に出ていたようだった

「杉浦...変なこと考えちゃだめだよ」
梨華がすぐに釘を刺してきた。いつもの死んだような表情ではなく、目は寂しそうに笑っていた
「あんたは祐里を守らないとダメなんだから。それだけ考えてなさい」

梨華の言葉が竜也の心に突き刺さった
それは痛いほどにわかってる。けど...これ以上考えるとハゲそうなくらい難しい

頭を掻きむしって悩む竜也に夏未が後ろから抱きついた
驚いて振り向いた竜也に対し、夏未は小さく微笑みを浮かべた

「私じゃダメなの?」
夏未が某ドラマのキムタク風に言ってきたので、思わず竜也は苦笑した
やがて夏未はすぐに離れたが、次に祐里が竜也の目の前にやってくると不敵な笑みを浮かべた

「やる前から失敗すること考えるバカいるかよ」
妙にしゃくれた口調で言うと、祐里は竜也に軽くビンタをした

「余計な心配、出てけコラ」
祐里はそう言ってから、竜也の耳元で小さく囁いた
「お願いだから心配かけないで。もうあんな想いしたくないんだよ...」

離れ際の祐里の表情は沈痛で真剣だった
竜也はその表情、そして未だに残る首の跡を見ると申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、ヨシハチへの申し訳なさも消えなかった

その様子を黙ってみていた光は、竜也に対して「ごめんなさい」と言って小さく頭を下げた
「ヨシハチくんだっけ。何とかできるよう頑張ってみるから。あなたはお願い、祐里のことだけ考えてあげて」

光がそう言うと、夏未はちょっと不貞腐れたような表情を浮かべた
「あのさあ、みんなして祐里祐里ってずるくない? 私もいるよー」

表情とは裏腹に、完全にふざけた口調だったので場が一気に和んだ
その空気を察して、夏未はしてやったりの表情に変わった

やがて直が竜也の肩をポンポンと叩いた
「大丈夫、何とかなるはずだ。なんだかんだ上手く行ってここまで来ただろ」

まあ死ぬ寸前まで行ったんだけどな
竜也はそう軽口を叩きたかったがさすがに自重した
相変わらず煮え切らない様子の竜也に対して、梨華が真顔で目を見据えた
「杉浦。次にまた祐里泣かせたら絶交だから」

聞いたことのない低いテンションで梨華が竜也にそう呟いたので、ようやく目が覚めた竜也は小さく頷いた
「わかってる。それだけはもう絶対にしない」
竜也が囁き返すと、梨華はいつもの無表情に戻って満足げに頷いた

「さあ、もう遅いから寝ましょう...おっと、その前に恒例の部屋決めあみだクジやるよー」

光がそう告げたので、5人はまた失笑してそれぞれ顔を見合わせた