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「結局こうなるのね」
祐里が呆れた口調で言い、竜也は「知ってた」と言って苦笑して頷いた

”あみだくじ”、最初から竜也と祐里に関しては出来レースだった

最初から番号が5つしか振られてない時点で、もう竜也は全てを察した
祐里が「何で5個しかないの?」と聞いても、光は完全に無視して梨華、直、夏未と数字に名前を書いていった

光が、「杉浦くんはどうせ3番でしょ」と言って、勝手に名前を書いてのあみだくじ
直。梨華。夏未&光と”割り当て”が決まり、光が最後に「じゃあ杉浦くんは祐里と同じ部屋だから」と言って、あっさり解散

そして今に至るというわけであった

「何かいろいろありすぎて疲れちゃった」
祐里はそう言って、すぐに布団で横になっている

さもありなん、と竜也は思って小さく笑った
竹田に襲われ、水田には首を絞められだからな。そりゃ疲れるわ
一人で納得していると、「違うよ、バーカ」と祐里が笑いながらそう言った

「誰のせいで疲れたと思ってるんだーって」
言って、祐里はジト目で竜也を見てきたので知らないふりをしてそっぽを向いて胡麻化した

「こら、こっち向きなさいよ」
祐里は笑いながら呼びかけるが、竜也は鼻歌を歌って聞こえないふりに終始する

よりによってルビーの指環を歌っているものだから、祐里はあははと笑った
「ったくさ、あんたの好きな歌って別れの歌ばっかよね」

言われてみれば、と竜也は内心で頷いていた。そいや昨日歌ったTogetherもそうだったっけ

「昨日は言わなかったけどさ、私に歌ってくれたあの歌も別れの歌よね?」
”ちっ、ばれてる”..そう思って、竜也は含み笑いをした。それに気づいた祐里は、またあははと笑った

その時、ドアを叩く音がした
やっべ、また怒られるのかと竜也は内心思ったが、とりあえずドアを開けることにした
ドアを開けると、そこには予想外に梨華がいたので竜也はちょっと驚いたが、とりあえず自分の布団へ逃げておいた

「ちょっと、何で逃げるの」
梨華は笑っていた。それから、「ずいぶん楽しそうね。お邪魔していい?」と続けた

予想外の提案だったが、祐里はすぐに「いいよー」と笑んで答えた

「そう言ってくれると思った」
梨華は笑ったまま部屋に入ってきた
まさかの布団と毛布、それに枕持参での来訪だったので竜也は思わず苦笑した

「ずいぶん準備いいね」
祐里は笑いながら、自分の布団の位置をずらして梨華の布団置き場を作ろうとしたがそれはすぐに梨華が制した

「ダメよ。私は真ん中。じゃないと川の字にならないでしょ」
梨華はそう言うと、自分の布団を真ん中においてどや顔

「はいはい。もう好きにして」
祐里は呆れた顔でされるがままにしていたが、竜也は妙に照れ臭いので背を向けて知らん顔を決め込んでいた

竜也のその様子を見て梨華は、「あ、そっか」と手を叩いて一人頷いていた
「これからハッスルタイムだったのね。ホントにお邪魔虫だったかー」
まるで見当違いのことを言われたので、シカト決め込んでいた竜也は思わず失笑してしまった
祐里は祐里で梨華の言ったことは完全にスルーした上で、「何かあった?」とちょっと心配そうに聞いた

「何もないわよと言ったら、嘘になるかな」
梨華はそう前置きしてから一つ息をついて、それから続けた
「さすがに疲れちゃったのよね。一人でゆっくりするのも悪くないと思ったんだけどさ、ずいぶん隣が楽しそうだなって
ちょっと気になって、来ちゃった」

「そんないいもんじゃないよ」
祐里はそう言って笑った。竜也もまだそっぽを向いたまま何度も頷いてみせる
「こいつがさ、別れの歌ばかり好きだって話してただけよ」

それを聞いて、梨華の表情が一気に変わった。恐ろしいほどの真顔になって、竜也に詰め寄った
「杉浦、ようやく祐里を捨てて私を選んでくれたのね。ありがと」
どこから突っ込んでいいのかわからず、もう竜也は笑いを堪えるのに必死だった。知らん顔を決めるのはそろそろ無理かも

祐里はその梨華の悪ノリに同調したようだった
「え...そうだったの。。私の体目当てだったのね...」
祐里がそう言って泣き崩れる真似をすると、竜也が反応する前に梨華は光速で突っ込みを入れていた

「それはないでしょ。あなたの薄い体じゃ杉浦は満足しないのよ。さあ、早く私を食べて」
完全にキャラが崩壊していた。もう突っ込みが追い付かないので、竜也は寝たふりを始める
まあ俺もいろいろあったしね、さすがにお疲れです。はい

完全シカトを決め込んだ竜也に気づいたようで、祐里と梨華は小声で何かを囁き始めた
いかにも意味深な感じで、わざとらしく竜也に聞こえるように、聞こえないように
もう気になってしょうがない竜也は、イライラしはじめている

それに気づいてか気づかないでか、祐里と梨華の囁きはどんどんエスカレートしていく
どう考えてもただの”挑発”なのがみえみえなのがまあムカつく話であった

「あぁ、もう何なんだよ」
竜也が切れたようにそう叫んで祐里と梨華のほうを見ると、案の定含み笑いをした二人の姿があったのでやられたという表情を浮かべた

「ね、言った通りでしょ」
祐里がそう言って笑うと、梨華も同じように笑って頷いていた

「何も喋ってないんだなこれが。ただのあんたを釣る餌だよ」
「何年一緒に居たと思ってるの。いい加減に察しなさい」

二人の波状攻撃に竜也はたじたじだった。いや、わかってたんだけどな。ただ気になるものは気になるだけで、ええ

「けど、まじで俺ら長いよな。小学校からずっとやし」
竜也がしみじみと言うと、祐里と梨華は頷いた。いや、よくも大きなケンカなくここまで来たもんだわ

「ホント、種ちゃんには感謝してるのよ。バカな私たちを陰から支えてくれたのは種ちゃんだから」
祐里がそう言うと竜也もすぐに頷いて同意したので、梨華は「やめなさい」とばかりに両手を振った

「そんないいもんじゃないって。私はあんたたちといるのが楽しいから一緒に居ただけだしね
むしろあんたたちのほうこそ、私とよくつるんでくれたよねって。私の話つまんないってよく言われるからさ」

そんなもんかね、と竜也は思った。俺はそうは思ったことないけどな
何気なく祐里のほうを見てみると、同じことを考えていたようで笑って頷いていた

「そいや祐里に聞いたけど、杉浦が子守唄を歌ってくれるんだってね」
梨華が唐突に振ってきたので、勘弁してくれと思った竜也は再び狸寝入りを敢行した
それを見て、梨華は祐里の方を見て小さく笑った。祐里が微笑み返すと、梨華は怪しげな表情を浮かべた

「そうそう。祐里には今まで内緒にしてたんだけど...」
梨華がはそこまで言っておいて後を続けないので、祐里と寝た振りしている竜也はTranquilo.じゃいられなかった
その様子に気づいている梨華は、一人ほくそ笑んでいる。まさに梨華の手のひらで躍らされている状態

「私ね、1回だけ杉浦に告白したことあるんだよね」
梨華がそう言ったので、思わず竜也はむせ返った。おい、あれ告白じゃねーだろと
しかし祐里は驚いた様子で、目を丸くしていた

「それ...ほんとの話なの?」
思わず声が小さくなる祐里に対して、梨華はふふと小さく笑ってから首を振った

「もし私が告白したらどうする?って聞いただけなんだけどね。そしたらこいつさ、オクパードでカンサードだからとか答えやがってさ」
梨華が笑いながらそう言うと、祐里は小さく息をついてから竜也に向かって枕を投げつけた
まともに後頭部に直撃したので、竜也はそのまま死んだふりへと移行した
ついさっき”帰還”したばかりだけどね

「ほら杉浦、早く歌ってよ。私だいぶ眠いんだからさ」
せっかくの死んだふりを無視して、梨華は歌うよう強要してきた
祐里もそれに同調するように、どんどん煽ってくる。ったく、なんなんですか。まったく

”誰が鳴らすかあの鐘は”
やむを得ずここまで歌ったところ、「あ、それはやめて」とすぐに梨華が制止した
何でだよ。ファイターズ賛歌でええやろ...

少し考えたが、じゃあこれでええやろと竜也は一人納得した
場の空気最悪になるぞこれ...

”夏の空は今日も青空で 君を思い出すから嫌いだった”

最後まで前を向けない、悲しい恋の歌
切なすぎるバラードで竜也の大好きな曲なのだが...今ここで歌うのは我ながらアホとしか思えない。まあ歌うんですけど

”きっといつか君の哀しみを 全て背負うそれが僕の夢だった あの頃...”

1番を歌い終えたが、終わっていい空気を感じなかったので続けることにした
いや、止めてくれよと思いながら

”夏の空は今日も青空で 君を思い出すから嫌いで 一人読んだ最後のページには
「精一杯生きた証の様な恋でした」
僕の恋はずっとそのままで一人大人になるのが寂しくて”

結局最後まで歌ってしまった。さて、どんなに怒られるのだろうと竜也は身構えていたが反応は違っていた

「何で今さそれ歌うかなー。ちょっと泣きそうになったじゃん」
梨華がしみじみ言うと、祐里はぐすぐすいい出す始末で竜也は頭を抱えた

「...そっか。あんたの中では祐里が死んだってことなのね。納得した」
梨華が澄ました顔でそう言ったので竜也は思わず吹き出し、祐里は半分涙目になりながらも
「種ちゃんひっでぇ」と言ってから、梨華の頭をこつんと叩いた

「まあこれ以上夜更かしもなんだし、いい加減寝るべ」
竜也が促すと、梨華と祐里は「そうだね」と同意したので竜也が消灯した
消灯してすぐ祐里の頭に枕を投げつけると、「ふざけんなアホ」という罵声が聞こえてきたが、それは華麗にスルーした

「あ、そだ。タネキもちゃんと歌ってくれないと反則じゃね?」
暗闇の中で竜也が言うと、「そうだそうだ」と祐里が同調した

ふふと小さく笑う梨華の声が聞こえたあと、「ちょっとだけ。ね」

”本当は泣きたくて 誰よりも臆病で 心はこんなにも弱くて
この胸に何度も 問いかけてみる 変わりたい 変われないのはなぜ?
ああ 思い願うほど 一途に追いかけるほど また逸れそうになるけど
繰り返して 今日より明日は強くなると ずっと 信じてゆける 私だから”

相変わらず重い歌歌いますねえ、竜也は内心で思っていたが祐里と一緒に小さく拍手を送った

「ご静聴ありがと。じゃあ寝ましょ」
梨華がそう言い、自然に3人は眠りの世界へ落ちて行った