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竜也が扉から出てきたことにちょっと驚いた様子の吉田に対して、竜也は目の前に広がす凄惨な光景に言葉も出なかった

「ヨシハチ、何があった」
竜也が聞くと、吉田は大きく息を吐いた

「ちょっと早く着いてな。4時半くらいか、ここに来たら兵士の群れよ。とりあえず乱射で凌いだが、さすがにもう限界だ」
血まみれだったのは返り血だったのかと竜也は一瞬安堵しかけたが、どうやらそれは勘違いだったようで吉田の腕や足から血が流れ出している

「ヨシハチ、中でみんなが待ってる。行こう」
竜也が促すと、吉田はすぐに首を振った
「無理だ。もう俺は足手纏いにしかならない...そして、見ろ」

吉田が指差した場所を見てみると、またも兵士たちが数人湧き出して来ていた

「正直キリがないぜ。俺が粘るだけ粘ってやるから、お前らは逃げろ」
竜也はそれを聞き、覚悟を決めた
扉の向こうにいる祐里たちに語りかけ始める

「どうやらそういうことらしい。ヨシハチと俺で食い止めるから、お前らは行ってくれ。終わり次第合流する」

竜也が言い終えると、中からすぐに祐里の悲鳴が聞こえてきた
「ダメよ。あんた死んじゃうよ? 銃なんて使ったことないでしょ」
今にも扉を開けて出てきそうな気配を察したので、竜也はどっかりとその前に腰を下ろして開けさせない

「バカか、さっさと逃げろ」
吉田はそう言いながら、兵士へ向けて再びマシンガンを乱射してなぎ倒している
その横で竜也の銃を発射して衝撃に驚きつつも、何とか兵士を攻撃することは出来ていた


「...祐里、行こ。時間がない」
光が促したが、祐里は聞く耳を持たずに両耳を抑えてから小さく呟いた

「嫌だ。絶対に嫌...」
そう言って祐里はその場にしゃがみこんでしまう

業を煮やして夏未が無理やり立たせようとするが、祐里は必死の抵抗で微動だにしなかった

「直ちゃん、お願い」
光がそう呼びかけたが、直は即座に首を振った。無理だ。無駄だ、と

「杉浦。お前が来ないと進藤は行かないと言ってるぞ」
直は外の竜也に向かって呼びかけると、竜也は小さくため息をついた

その時だった

兵士が四方から急に現れ、吉田と竜也はさすがに戸惑った
吉田がマシンガン乱射し、竜也も銃で応射したが多勢に無勢。これはホントやべえな、と竜也は感じた

やってもやってもキリがないというのは、こういうことなのだろう
ひたすら響く銃声に、扉の向こう側から祐里の泣き叫ぶ悲鳴が聞こえ始めた

「杉浦、もう行け」
攻勢が止んだ際に吉田が促したが、竜也は首を振った

「アレだな、上の崖崩してこの扉塞ぐしかないんじゃね」
竜也は上を見上げてそう言うと、吉田は小さく頷いた
「それは思ったけどな。けどもう俺はそこまで体力残ってねえし、そもそもお前も逃げられなくなるだろ」

その会話が終わるか終わらないかの刹那、再び兵士たちが出現した
もう無限ループじゃんこれ...竜也と吉田はさすがに戸惑うと、そこに一瞬のスキが生まれた

兵士が撃った銃弾が目の前の石に直撃して肝を冷やした
あぶねえ、死んだらどうすんだよ

直後、何かの爆音が響いてきた
そしてすぐにそれが何かわかった
一台のハーレーが現れると、兵士たちへ向けてショットガンを噴射していた
兵士たちの悲鳴が聞こえると同時、ハーレーは竜也たちへ向けて近づいてきた

「おい、杉浦。てめえは顔じゃねえんだよ」
ハーレーに乗っていたのは、傷だらけの渡辺享明と”助手席”に座り込んでいる後藤和興だった

渡辺は杉浦を見ると同時、中から聞こえる祐里の悲鳴にも似た泣き声に耳を傾けて状況を察したようだった

「後藤、吉田。杉浦を向こうにやるぞ」
そう言うと、扉を開けると力づくで竜也を祐里たちのほうへ追い出した

「それからよ。進藤! ずいぶん杉浦のこと信用してるみたいだな。そうかそうか」
そう言って渡辺は高らかに笑い、その後に後藤の笑い声も届いた

「杉浦、行け。詳しい事情は分からんが、ここは俺らだけで十分だ。お前はお前にしか守れないものを守れ」

竜也はそれでも再び扉を開けて戻ろうとしたが、なぜかびくともしなかった

結局残された竜也は非常に気まずい雰囲気
祐里は目を合わせようとしないで俯いていて、光と直、夏未は苦笑していた

竜也は仕方がないのでまずは光と直、夏未にそれぞれ頭を下げて許しを乞う
3人はそれぞれ、「もういいから」というように手を上げてそれを制してくれたのだが

もう一人は厄介だった

涙目を擦りながらも、絶対に竜也と視線を合わせようとしない祐里に対して竜也は完全にお手上げな表情を浮かべたが
光が「早くしなよ」と合図を送ってきたので、竜也は何度か首を振った

祐里の側に寄ってから、耳元で「ビアーズパパのシュークリーム」と囁くと祐里は小さく首を振った
「ならシャトレーゼのアップルパイ」
竜也が再び呟くと、祐里はまたしても首を振った
「...ケーキ食べ放題」
祐里がそう呟いたので、竜也は苦笑しながら「わかった」と返した

「終わったみたいね。じゃあ行きましょう」
竜也と祐里のやり取りを見ていた光はそう促してから先導を切り、4人はそれに続いた


傷だらけの渡辺と後藤を見て、それ以上にぼろぼろの吉田は驚いた表情を浮かべていた
「どうした。何があった」
吉田がそう聞くと、渡辺が後藤に対して頭を下げた
「すっかり暴走してた俺を、後藤が元に戻してくれた。罪滅ぼしなんてもんじゃねえが、助かろうとしてるあいつらを見殺しには出来なかった。それだけだ」
それを聞いて後藤も小さく頷いた

「...まあ、ぶっちゃけ俺らはここまで。崖から落ちたときに骨何本も逝ってるしな。ナベがよくここまで連れてきてくれたよ」
場違いながらも感慨深げに後藤はそう語った

「なあ渡辺、そのショットガンであの上の崖崩せるか? 入り口塞いどけばあいつらはもう大丈夫だろ」
吉田がそう言って笑うと、渡辺と後藤もつられて笑った

「水木光に栄光あれ」
そう言って、渡辺は崖に向けてショットガンをぶっ放した
見事に扉が崖で覆い被されたのはいいが、自分たちにも大なり小なり石がぶつかってなかなか酷いことになったのだが

しかし3人は笑っていた
「何だよお前、水木のこと好きだったのか」
吉田が言うと、渡辺は照れ臭そうに頷いた。いつもの頼りになる男・渡辺の表情に戻っていた
「高嶺の花なんてもんじゃなかったけどな。ましてもう俺は悪事に手を染めてしまった。せめて幸せを願ってやるしかできねえんだ」


その後、再び兵士たちの猛襲があって吉田と渡辺、後藤による激しい銃撃戦が繰り広げられた
3人はそれぞれ力尽きたが、誰一人兵士たちの侵入は許さなかった