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いつものファミレスにいたのは、6人ではなく5人だった
竜也が親戚に不幸があったための欠席。ホント去年に戻ってるんだなと夏未は内心驚きを隠せない

いつものように談笑していたが、何かいつもとは違う気配なのは否めない
女子4人に男子1人。直がちょっと居づらい空気を出しているのが、今の夏未にははっきりと分かった
まあ私が同じ立場ならそうなるしね...

そんな時、梨華が不意に話し始めた
「私、明日からまた入院するんだよね」
あれ、この流れは...夏未は内心の驚きを隠すのに必死だった。これから揉めるんだよね...

「よかったわね。もう養命酒飲まなくていいじゃない」
光が茶化すと、梨華は真顔で頷いた。「美味しいもんじゃないからね、飲まないで済むならもういいわよ」と
すごいな。ホント去年と全く同じじゃん、と。あ、この後は....

「そっか。種ちゃんが万全になるなら、ボーカル種ちゃんだしもう竜はお払い箱だね。あいつ下手くそだし」
祐里が微笑みながらいつものように何気なくそう言うと、直の表情が一変したのがはっきり分かった

直は小さく首を振ると、財布から千円札を出してテーブルに置くと不意に立ち上がった
「俺帰るわ。あと、杉浦お払い箱なら俺脱退するから」
そう言い残すと、振り返りもせずに店を出て行った

あれ、この後私も怒って帰るんだったっけ...?
夏未がちょっと逡巡していると、光が祐里の顔をしっかりと見据えていた
「祐里、どうして直ちゃんが怒ったのかわかる?」

祐里がすぐに首を振ると、光は夏未と梨華のほうを見てちらっと笑った
「なら私も脱退するしかないかもね。そろそろ勉強に本筋入れないとまずいから」
そう言うと、小さく手を振ってから光も店を後にした

残されたのは祐里と梨華、そして夏未だった。ほとんど泣きそうになっている祐里を、梨華はいつもの真顔で黙って見つめていた
「ねえ、どういうことなの。。種ちゃんと夏未はわかるの?」
祐里がそう訊くと、梨華は小さく頷いたので「ねえ、教えてよ」と半分涙声になってそう言った

梨華は無表情のままだったが、小さく首を振ってからまた祐里のほうをしっかりと見つめた
「あのね、さっきのアレはさすがにダメだと思うよ。杉浦がこの場に居れば笑い話。けど、今はいないんだよ」

あぁなるほど。こうやって種ちゃんは祐里を宥めていたんだ...夏未がそう感心していると、祐里はがっくりと肩を落として俯いている
「...私、そんなつもりないのに。。どうして」

祐里はすぐに光に電話をかけていたが、『電話に出ることが出来ません』
返す刀で竜也にも電話をかけてみると、こちらは繋がった

「...どうした? もうすぐ法事だからあんま時間ないぞ」
竜也がそう言うと、祐里はスマホを梨華に渡した
戸惑う梨華に対し、祐里は手を合わせてから頭を下げ「お願い」と言って再び俯いた

「ごめん、私。祐里はパニックを起こして話せないから、私が言うね」
梨華はそう前置きしてから、今起きた出来事を話した
黙って聞いていた竜也だったが、やがて「ごめん、もう時間ねえわ。あとで2人にLINE入れとくから」と言って通話を切ろうとして、「あ、進藤に変わってくれるか?」と続けた
それで梨華は祐里にスマホを渡すと、「杉浦が祐里と話したいってさ」
スマホを受け取った祐里が「うん」と話すと、
竜也は「つかお前、もうすぐオーディションじゃん。頑張って来いよ。”de 稜西”は俺が函館戻ってから何とかするから」
そう言って、通話は終了した

そしてすぐに祐里にLINEが届く
「しばらく札幌。見送り行けなくてごめんな」
それを見て祐里は再び俯いて首を振った

「杉浦なんだって?」
梨華がそう聞くと、祐里は無言で首を振っただけだった
そしてその日はそのまま解散となり、夏未は家に帰宅する

何か異常に疲れた感があったので、夏未は昼寝をしようと横になっていた
そして、また昨夜と同じようにウトウトとしかけてすぐの事だった

「うらめしやー」
酷い棒読みで舞がそう言って夏未のほうを見て笑っている
え、またなの?と夏未が思う前に、舞は明らかに不機嫌な様子を隠していない

「夏未ちゃん、あなたダメダメすぎる。もうゲームオーバーだよこれ」
舞はそう言って首を振っている。どうやら”選択肢”を間違えたようだった

「夏未ちゃんはゲーム得意だって聞いてたんだけどなー」
舞は不満そうに口を尖らせているが、そもそも私が得意なのは...
「私はアクションゲームは好きだけどね。シミュレーションは範疇外だよ」
夏未が思わず素で答えると、舞はちょっと驚いた様子を浮かべている
しかしすぐに舞はいつもの柔和な表情に変わり、「夏未ちゃん優しすぎるからなー。内心竜也くんと祐里ちゃんの関係を壊すのが怖いんだよね?」といきなり核心をついてくる

その通りだった
確かに竜也と付き合いたい気持ちはないことはないのだが、祐里と仲睦まじいのを破壊してまで奪おうとは思えないのも本心だった
これは私には荷が重すぎるよ、と

「ホントはこれ言いたくなかったんだけど...特別に教えちゃうね」
舞はとても寂しそうに語り始めた
祐里と竜也がこのまま付き合っていると悲劇が待っている
祐里は『芸能界』を引退して函館に戻って来ているが、ドラマのモブ役などですでに『アイドルマニア』に実は知られた存在
時期にストーカー被害などに遭い始め、それから庇った竜也が刺される未来が待っているという
竜也くんだけじゃなく、祐里も壊れちゃうんだよと。だから夏未ちゃん、貴女が救ってあげて
私の命だけじゃない。竜也と祐里の運命も変えてあげて、と

「それ....ほんとの話?」
夏未が思わず聞くと、舞はいつもの微笑みを浮かべている
「信じるか信じないかは...夏未ちゃん次第よ」

夏未はまた逡巡している
どこまで本当かはわからないが、あながち嘘とも思えないそれ
事実、今日まさかのバックトゥザフューチャーをしていた現実があるだけに

「夏未ちゃんに選ばせてあげるね。もう1回やり直すか、それともこのまま続けるか、または元の時空に戻るか。3択だよ」
夏未がこのまま行くと?と聞くと、舞はちょっと下を向いて小さく頷いている
「いい結果にはならないよ。私が竜くんと付き合って、その次の日に死にます。それで祐里ちゃんと竜くんが付き合って、祐里がストーカーに殺されちゃう未来です」
微妙に変化はしているようだが、バッドエンドは確実なようだった
それで夏未は一つ気になったことを聞いてみることにした

「どうして私なの? 竜くんに直接頼めないの?」、と
それを聞くと舞はとても悲しそうな表情に変わる
「無理だよ。竜也くんにそんなこと頼めないよ」と言って、わざとらしく泣き真似をしている
どう足掻いても私と竜くんが付き合うと私はその翌日に死んでしまいます
竜くんは今、祐里と付き合って幸せだと思っているのに今更私が出向いても悲しい思いをさせるだけ
そもそもバッドエンドしかない未来を彼に背負わせることになるんだよ?と

「そういうことか。確かに竜くんなら未来を変えようと足掻きそうだよなあ」
別の意味で廃人になる未来が夏未にも予見できた

光ちゃんはそもそも竜也くんを彼氏にしようとは思ってないし、種ちゃんも祐里ちゃんを悲しませてまで奪いに行くわけがない
だから夏未ちゃんなんだよ、と舞はそう言うと、また消えていきそうになっている
いや、まだ私返事してないよと夏未が思うと、「あ、そうだった。ごめん」と言って、舞は笑って両手を合わせている

舞はさらに続けた
「戻れるのは今回が最後ね。また明日がバッドエンド確実な状態なら、強制的に元の世界に戻されちゃうって今連絡があったよ」

いつどこでそんな連絡をしていたんだと突っ込みたい気分だったが、もう夏未に猶予の時間はないようだ

「わかった。もう1回チャンスを頂戴。私が悲しい結末を変えてみせる」
夏未がそう言うと、舞はありがとうと言って小さく笑った
お願いね。私だけじゃない。祐里ちゃんと竜也くんの命も懸かってるんだからね、と

そこまで言った後、舞の表情がまた怖い感じに変わる

「”de 稜西”の絆とか、そういうのに縛られちゃダメだからね。竜也くんが3年連続の大合唱をしたらそれがバッドエンドだと思っていいから」
舞はそう言うと、両手を振って静かに消えていった

ふぅ、目が覚めた夏未が例によってスマホを開いて時間を確認すると
7月20日。午前9時35分と表示されていた

give me a chance
最後に賭けてみたいんだ
once more chance
私は確かめてみたいんだ
目を閉じればみんなの声が聞こえてくる

ロス・インゴベルナ〜ブレ〜〜ス!デ・リョウ・セイ!
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