「ひでーよな。有無を言わさずだぜ? 明日はゆっくり競馬見ようと思ってたのに」
帰宅後、竜也はしっかりと美緒に電話している。美緒はふふと笑いつつ、元の竜也に戻ったみたいでよかったよという反応
「牛丼女子高生に感謝しないとだね。お陰で私はいつも通り竜也と話せるようになったよ」
美緒が茶化すと、ほんとごめんなと竜也は素直に謝っている。梨華に出会ってなければ、未悠に振られた“失恋モッシュ”(拳王入場曲ism)で頭おかしくなりかけていたわけで
まあ、あっさりブロックはしていたけれど
「ふふ、すぐブロックしたのは賢明な判断だね。未練がましいよりはずっといいよ」
さり気なく匂わせたところ、お褒めの言葉を頂戴している。まんざらではなかったので、もっと褒めてくれていいよと続けたところ、美緒はまたふふと笑う
「心配してたんだよ。牛丼を食べながら歩いている女子高生を見たとか、意味わからないこと言いだすんだから。今日の今日まで全く連絡くれなかったのに、いきなりそんなこと言われてみてよ」
確かに、と竜也は思う。1回通話を挟んでいてすら心配されるんだから、それすらなかったら美緒のことだし飛んで来てたかも知れない
それを口に出してみると、美緒はうん、うんと同意を示している
「何度そっちに行こうと思ったかわからないよ。甲子園に行ってなければなあって」
さすがの美緒も、何度も遠征するほど銭に余裕ないよなと竜也が呟くと、美緒はお金の話はしてないよとまた小さく微笑んでいる
「大事な人が悩み、困っているのにお金は気にしてられないけどね。お父さんとお母さんの了承がさすがに出ないからさ」
器の違いを思い知らされ、竜也は思わず参りましたと返している。ごめんね、まず最初に金の事ばかり考えるド庶民で
「代わりと言っちゃなんだけど、国体は応援に行こうかな。準決勝決勝は土日らしいからね」
美緒の声のトーンに熱がこもり始めているが、竜也はうーんと生返事
「マジな話するとさ、俺も伊藤くんもベンチ入りできるか微妙だと思う。そもそもベンチ枠がまた18に減るし、怪我人連れていく余裕ないからさ」
浩臣は俺は絶対に国体に間に合わせると力こぶを作っていたが、実際脚が治るかは微妙なところ
「俺も全治2週間くらいって言われてて。1週間経っても全くよくならないからさ」
竜也がそう愚痴ると、美緒はまたふふと笑みを浮かべている
「当たり前じゃないか。2週間安静にしてと言われた当日に、どれだけフルスイングしたんだっていう話だよね。打席に入っただけで私は泣きそうになったっていうのに」
およよと泣き崩れる真似をしている美緒に対し、竜也はまたごめんと謝る羽目に
それで美緒はまたふふと笑いつつ、どうして学校に行かなくちゃいけないの? と素朴な質問
「明日午後から紅白戦やるんだってさ。んで、そのメンバー決めを俺と伊藤くんで“ドラフト会議”しろだって。もうめちゃくちゃだよ」
祐里から言い渡されたそれ、最初何の冗談だと言ったら、マジもんだったという恐怖。竜也が今日の午前中のままの雰囲気だったら、浩臣(白)vs祐里(紅)だったんだよと言っていた
あーよかった、竜に責任負わせることができたとあははと笑っていたが、俺の日曜日を返せという切ない思いは消えていない
「ホントキミは競馬好きだね。だからあの時、私と一緒に逃げ出していれば“ロイヤルファミリー”だったのにね」
またその話蒸し返すのやめてという感じで、竜也は声にならない苦笑。とはいえ、馬主はなりたかったなという思いは尽きない。それ口に出すと、また美緒に怒られそうだから言わないけれど
“キミは私より馬主のほうに興味があるんだね”
「まあ、やるからには伊藤くんには負けないけどな。俺は試合出られないけど、伊藤くんも投げられないし。勝てるメンバーを本気で選ぶわ」
竜也がそう話すと、それでこそ杉浦竜也だと美緒がおだてている。じゃあ私が最後に必勝法を伝授してあげるねと言ったので、竜也は素直に清聴することに
「1番セカンド杉浦は絶対に使わないでね。あと代打オレも絶対に禁じ手だからね」
美緒らしい気遣い満載のアドバイスだった。さすがですねとしか言いようがない
「セカンドか。俺の中ではもう決まってるけど、指名できるかわからんな」
まさかのマジレスで返すと、美緒はうん、さすがキミだとまたおだててくる
「まあ私の本音は西陵のセカンドは杉浦竜也しか考えられないけれどね」
美緒に言われ、竜也はそれはそうなんだけどと返したので、美緒はまたふふと笑っている
昨日まで1週間連絡を絶っていたとは思えない穏やかな空気がひたすら流れ、ほんと悪いことしたなと竜也は反省している。まあ、ちょっとずれるとまた鬱モードになりそうだけど
「セカンド、玉子でいいんじゃないかな。どうせまたいやらしいゲームの話をしてたんでしょ」
とんでもない爆弾を投げられたので、竜也はねーよと即答しつつ噎せている
「それは...どっちが“ない”のかな? 事と場合によっては、キミともう会話をすることがなくなるけど」
美緒は機嫌がいいらしく、饒舌になって毒舌モードになっている。まあ俺も大概口悪いから気にしないけど
「美緒が傍にいないからさ。空いた時間にゲームくらいやるでしょ」
匂わせであえて挑発してみると、美緒はふふといつもの笑い声を聞かせてくれるが、直後に許さないよと続けている
「そういうこと言うんだ。やっぱり一番信用できないのは杉浦竜也なんだね」
なぜか急に突き放されるが、俺は信頼にも信用にも値しないわなと自虐していると、美緒はすぐにそれは違うよと否定している
「軽い冗談なのに、どうしてキミはすぐ拗ねるのかな」
言って、私が傍にいないとか先に煽ってきたのはキミじゃないかと逆に嘆いている状態
あ、これは空気が悪くなると思い、竜也は話題を変えることを提案した。そうだ、聞きたいことがあるんだけどと前置きしたうえで
「松村の彼氏だけど、酒井じゃないよな?」
もしそうだったら2人も友人を失うことになりそうと思ったからの問いかけに、美緒は即座に違うよと返してきたので、竜也はほっと一安心
「ホッとしてる感じだね。まあ気持ちはわからないではないよ」
美緒の口調もいつも通りな感じに戻り、軌道修正に成功した感
つか、なんで今日の今日まで会話を拒んでいたんだろうとまで思うレベルに、美緒への強依存状態
それを素直に美緒に伝えると、またふふと笑っている
「それはキミが馬主になりたいだけじゃないのかな」
美緒が笑いを堪えるようにそう返されたので、竜也はその通りだぜとあえて力強く返している
「男ならなりたい職業第3位だぞ、当たり前じゃん」
以前と順位を変えて振ってみると、美緒は興味津々な感じで食いついてきた
「前と違うよ。馬主は4位だったはずだけど」
さすが美緒、よく覚えてるなと感心しつつ、竜也は得意げに話し始める
「1位はアメフトでキックオフだけ担当するキッカーで、2位は米米CLUBで適当に踊ってる人」
さり気なく内訳を変えてみると、美緒の笑い声が心なしか大きくなっている
「あまり笑わさないでほしいんだけど。両親に不審者に思われたらどうしてくれるんだい」
言って、責任を取ってくれるのかな? と続けて来たので、竜也は見えてもいないのにニヤリと笑みを浮かべている
「ロブソンには責任を取ってもらう(闘将柱谷哲二ism)」
また美緒はスマホの向こうで激しく咳き込み始めている。もう嫌だ。キミと話すのは懲り懲りだと言わんばかりに、大きく息をついている
「もう連絡しないでね。キミと話していると私は実家にいられなくなるよ」
美緒がそう言い放ったので、竜也はわかったと素直に聞き入れてしまっている
「じゃあまた明日。紅白戦の結果を教えるから楽しみにしてて」
聞き入れたくせに、何事もなかったかのようにそう返す竜也に対し、美緒はありがとと言ってふふと微笑んでいる。ホント、牛丼食べて歩いていた子に感謝だねとひとり呟きつつ