「じゃあさっそく始めちゃう?」
“3年3組”の教室には杉浦竜也、伊藤浩臣、進藤祐里、そして黒澤奈乃香の4人が集結している
部室に向かったところ、渡島監督は「部員の邪魔だ。教室でやってくれ」と不敵に申し付けて来たので、竜也と祐里の教室で行うことになった
2−1じゃ伊藤が可哀想だ。黒澤も行っていいぞと言われ、素直に奈乃香が応じていた
タブレット持参で奈乃香が進行役、祐里がそれぞれの指名を受けつける“ドラフト会議”だったのだが、先攻後攻を決めるじゃんけんで勝った浩臣の提案で、『チーム戦』を行うことになった
「竜はな、進藤がいないと何もできないんだ。よーく覚えとけ」
どっかの闇の王のようなことを言って、浩臣は祐里をパートナーに指名しているが、竜也は意に介さずじゃあ俺が先行でいいんだねと返している
あれ、反応が予定と違うなと浩臣が感じていると、竜也側についた奈乃香が不敵な笑みを浮かべている
「伊藤さん、結局同じ部屋にいるんだからそれは効果ないと思いますよ」
それを聞いて、竜也はニヤリと笑い同意を示しつつ、早くも1位指名を奈乃香に伝えている
「紅組 第1回選択希望選手 貴崎竜路 1年」
きさき りゅうじと聞いて、祐里はキョトンとしている。え、リュウロじゃないの? と口に出すと、3人はそれぞれ違うだろと笑っている
「進藤さんが呼び間違えただけですよそれ」
衝撃の事実を聞かされうなだれている祐里に対し、浩臣はどんまいと声をかけつつ、この2人でどうだろと名簿を指差している
あぁ、そっちは相談するんだと思い、竜也は奈乃香に誰が取られると思う? と相談を開始している
「伊藤さんですし、きっと1位は千原さん、2位はきょぴさんだと思います」
順当すぎる奈乃香の読みに、竜也は頷いて同意を示している。まあ順当ならそうだよねと思い、竜也はじゃあ2位岡田でいいなと指さすと、奈乃香は笑みを浮かべて頷いていた
「第1回選択希望選手 白組 久友弘之 3年」
「第2回選択希望選手 白組 千原宗大 3年」
祐里の無駄にいい声が響き、浩臣はニヤリと頷きつつドヤ顔をしている
あぁ、こういう手もあったなと思い竜也はあえてサムズアップで返し、余裕を見せている
「チャンスですよ。きょぴさんと岡田さん両方取れます」
奈乃香に言われるまでもなく、時は来たと竜也は感じていたのでじゃあその2人でと即答している
「第2回選択希望選手 紅組 草薙京介 3年」
「第3回選択希望選手 紅組 岡田和紘 2年」
会心の指名に竜也と奈乃香が笑みを浮かべていると、祐里は不意に言い忘れてた! と言って、指名除外選手を発表しますと続けている
那間、天満、ビッグブラウン賢人はそれぞれ軽度の負傷中のため、球審、塁審を務めるので指名から除外してくれと渡島からの申しつけ
聞いて竜也と浩臣はそれぞれ頷いている
「次はどう来ると思う?」
竜也が奈乃香に囁くと、須磨と右内を指差している。お、意外だなと思うと、奈乃香は不敵な笑みを浮かべて囁き返してくる
「杉浦さんに絶対負けたくないはずですから。自慢の投手揃えて嫌がらせしてきます」
一方浩臣はしくったかなという感じで首を傾げつつ、祐里を呼び寄せている
どうする? と名簿を示すと、祐里はアハハと小さく笑って指差しているのを見て、浩臣はクククと含み笑いをしている。進藤、やるな。乗るわと続けて、その2人でとコール
「第3回選択希望選手 白組 右内太結 3年」
「第4回選択希望選手 白組 近藤良治 3年」
まさかの嫌がらせ特化指名だった。投手2枚、捕手2枚を確保するという、タチの悪い“攻撃”だったので奈乃香はやばいという表情を浮かべているが、竜也はいつも通り表情一つ変えていない。むしろ小さく笑みを浮かべているくらい落ち着いているそれ
「だってさ、キャッチャーなら“ヒグっちゃん”でいいし。むしろ打撃なら上だぞ」
竜也が名簿を指差すと、奈乃香はあぁ!という感じで手を叩いている。勝ちましたねこれと言って、ニコニコ満面の笑み
「第4回選択希望選手 紅組 樋口智宏 3年」
「第5回選択希望選手 紅組 高井孝之 3年」
『捕手』と『左腕』の両取りにまで成功し、竜也と奈乃香はハイタッチ。祐里はあちゃーやられたね、という感じで浩臣の左肩をポンと叩いている
「だったな。ヒグっちゃんも捕手行けたんだったわ。俺は組んだことないから忘れてたわ」
言いつつ、浩臣は万田怜央、和屋宗八の2人を指名して野手の底上げを図っている
「万田ちゃんはセカンドも行けるしな」
もう勝ったも同然な気分で意気揚々。余裕綽々で浩臣にアドバイスまで送る余裕を見せている
「ムカつくわー。だから竜を敵に回すの嫌なんだって」
浩臣が愚痴ると、祐里はアハハとひときわ響く笑い声。伊藤くん、このままだともっと攻撃されるよと続けたので、浩臣はお手上げのポーズ。お前、どっちの味方だよと思わず愚痴るレベル
竜也は返す刀で須磨朔那、大杉教介を指名。須磨たそがサードで、孝之がホワストだなと奈乃香に呟いているのを聞いて、浩臣は勘弁してくれという感じで右手を振っている
投手は2イニングまで、7回制という紅白戦
1年や2年のベンチ入りを果たせなかった投手にも多分に出番がある実戦。国体や秋季大会に向けて、格好の場になる
国体に選ばれなかった3年には最後の晴れ舞台になるかもしれない
「一つ聞いていいか」
いったん指名を止めて浩臣がそう呼びかけると、竜也はん?という感じで視線をそちらに向けた
「今回は俺ら試合に出ないけどさ、もし出たとしたらやっぱり1番を打ってたん?」
浩臣にそう訊かれ、竜也は即座に首を振ってそれを否定してみせた
「伊藤くん先発だろ? んで2イニングで降板ルールだから、俺9番スタメンで3回から勝負にしてたと思うわ」
即答され、浩臣はニヤリと笑みを浮かべて頷いていた。個人の勝負より、チームの勝ちのほうが大事ってことか。参ったと降参のポーズをしてみせると、祐里と奈乃香から試合放棄とは情けないと苦言を呈され、苦笑を浮かべる羽目に
その後も指名は粛々と行われ、竜也の番が回って来た
何かを閃いたようで、また不敵な笑みを浮かべると奈乃香を手招きして名簿を指差している
「杉浦さん、鬼ですね...伊藤さん泣きますよそれ」
言いつつ、竜也の言った名前を読み上げる
進藤祐里、黒澤奈乃香
まさかのマネージャーを2人指名。まだ部員が残っているのに、余裕かまして遊び始めるサプライズを敢行している
「ベンチに“け”一人じゃ寂しいだろうから、祐里を話し相手に指名した」
訊かれてもいない指名理由まで公言すると、浩臣はもう勘弁してくれよと思わず大きな声を出していた