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「ずいぶん楽しそうだね。何をやってるんだい?」
教室のドアが開くと同時、一人の野球部員が入って来た
なぜか早くもユニフォームをしっかり纏った変態玉子(通称千葉安理)の姿がそこにある
監督に訊いたよ。ドラフト会議をやってるんだってねと興味津々

4人が唖然として返事もできないでいると、玉子はタブレットを見てご不満な様子を隠さない

「どうして僕がまだ指名されてないんだい。甲子園でホームラン打ったのは僕と伊藤、貴崎だけだし、ヒットを3本打ったのも僕と杉浦だけなのに」
いきなりまさかのマジレス
浩臣と竜也は、それぞれ押し付け合いの感じであえて玉子を避けていた(いろいろめんどくさいので)だけで、別に戦力とみなしていないわけではない

「って、次は伊藤の番じゃないか。じゃあ代わりに僕が指名してあげるよ」
言って、千葉安理、渡島監督という制御な指名を完了させている

おい、勝手に決めるなよと浩臣が苦笑しているが、竜也と奈乃香は何事もなく1年の小沢とマネージャーの青井妃那を折り返しで指名し、浩臣を絶句させている

「スコア付けられるマネージャー全部取るんじゃねーよ」
舌打ちしつつ、浩臣は玉子を見てお前がマネージャーな。スコア付けよろしくと右肩をポンと叩いている

その後も滞りなく全部員の指名が完了する
試合開始は13時とのこと、時計を見ると時間は11時を過ぎたところ

「腹減ったな。メシでも食いに行ってくるか」
浩臣が提案すると、祐里と奈乃香は外暑いから嫌だとまさかの拒否(校内はエアコンが効いています)

「近くにそば屋あったっけ」
竜也が妥協案を提示するが、祐里と奈乃香は再びのNO

「食堂開いてたよ。何なら売店も開いてたし」
言いつつ、安理は僕は弁当持ってきたから部室で食べるんだと続けている

「売店でパンとかでいいかと思ったが、食堂開いてるならそれでいいな」
浩臣がそう言うと、3人はそれぞれ同意を示している。伊藤先輩、ゴチになりますと奈乃香の目が輝いているが、浩臣はそれをスルーしている

「あ、玉子。プリントアウトしといて。スタメンも入れてあるからそっちも」
試合開始前、“メンバー表交換”をすることを踏まえての依頼をすると、安理は自信満々にいいよ、分かったとの即答

じゃあまた後でな、と3人は教室を後にしている


食堂へ行くと、強面な中年男性が腕を組んで待っているだけの状態
メニュー表もなく、食券販売機も停止している状態。いや、これ無理だろ。引き返すしかないかと竜也は思ったが、怖いもの知らずの奈乃香はお好み焼きありますか? とまさかのリクエスト

「あるよ」
男は強面のままそう返すと、竜也、祐里、浩臣の顔をそれぞれ見据えている
え、これは注文受けてくれてるの? という感じで、祐里はおずおずとやきとりと焼きそばをリクエストしている

「あるよ」
これも即答だった。楽しくなった竜也が、オムそばめしというなかなかどの店でも受け付けられないものをリクエストすると、当然のようにあるよとの返事
それで浩臣がじゃあ俺は天ざるでと注文をすると、男はあるよと静かに頷いて厨房へ向かっていった


§

美味すぎる昼食が終わり、浩臣、祐里、奈乃香はグラウンドへ向かっていった
竜也は一つ買い忘れたと言って売店へ向かうと、どう見ても食堂にいた強面の男と同一人物としか思えない人が立っている

昨日近隣の書店でどこにも売ってなく、Konozamaだと転売価格で買うのやめたになったあの本がもしかしたらという思いで駆け込んだそれ
竜也が一歩を踏み出して、男にそれを尋ねてみた結果

「あるよ」


§

紅組、白組がそれぞれ振り分けられ始めている
その際に、竜也は『甲子園ベンチ入りメンバー』に、先ほど入手した本へサインを依頼している

梨華にボールを貰う約束、ただ貰うだけじゃ相手に失礼と思い、名鑑に全メンバーのサインを入れて交換
釣り合うかわからないけど、俺ができる精一杯がこれかなという思いでの行為
真っ先に自分の場所にサインを入れてあるため、最初に依頼した浩臣は思わず吹き出している
そのやり取りを見た祐里が寄ってくると、竜也のサインを見て何か言いたそうな雰囲気

「あんた、なんでサイン変わってるのさ」
今までは“tranquilo” “INGOBERNABLES”と書いてあったそれが、今日は“Got it,Move” “JUST LIVE MORE”に変わっていたのだから

「だって会社倒産しちゃったし」
竜也の回答がまさに制御不能すぎて、浩臣は再び咳き込んでいるが、慣れた手つきで頼まれたサインは書き終えている

「って、なんだよこのサイン。Henry Rinehatって誰だよ」
竜也が安理にそう訊いているが、僕のサインだろ、なんか文句あるのかい?と即答してきたので、面倒になった竜也はすぐに別の選手のもとへ向かっている

なんだかんだで全員分集め終え、竜也はやれやれという感じでベンチに戻る
ちゃらそうな1年の小沢に向かい、先発だからよろしくなと声をかけて樋口を伴ってブルペンへ向かわせている

「先発小沢なんですね。意外でした」
奈乃香は感心したように呟いているが、竜也は1年の捕手も呼ぶと、成田と一緒にブルペン行ってくれと依頼していた

「成田、今日は怒らないでニヤニヤしながら投げてみれば?」
祐里がそう呼びかけると、成田は首を傾げながら足早に姿を消している

試合開始目前、国歌斉唱ならぬ校歌斉唱が行われている中、メンバー表交換が行われる
俺行ってきますと竜路が紅組、僕が行くよと安理が白組

それぞれ交換して、すぐに両者はベンチに戻っている

本来なら祐里と奈乃香による“ウグイス嬢”のはずだったが、竜也の嫌がらせにより2人は紅組ベンチにいるわけで
祐里が「紅組」、奈乃香が「白組」のアナウンスをすることで一応了承が出ていた