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竜也がグラウンドに戻ると、試合は4回裏だった
得点は0−0のまま、両軍の投手は久友と須磨に代わっている

「成田ナイスピッチだったよ。ニヤニヤして相手が怖がってたさ」
祐里が褒めると、当の本人はプッシュアップバーでトレーニングをしている状態
1イニングで交代。サードには岡田を回して大杉がライト、ショートには中島が入っている

「って中島白組じゃねーか」
竜也がそう突っ込むが、西陵の誇る3人の美人マネージャー祐里、奈乃香、青井は素知らぬ顔

竜也のツッコミが聞こえたようで、1塁ベンチから安理が返答している

「僕に代わって勝手に試合に出た横暴は許せないから追い出したよ」

制御不能な返答に、安理は浩臣からベンチ外へ追い出されている。ドアにしっかりと鍵をかけてから、試合中なのに浩臣は3塁ベンチへ向かってきた

「中島が白組でハイになりたいって言うからな。代わりに那間と天満をうちに貰ったわ」
言って、浩臣はまた試合中なのに平然と1塁ベンチへ戻っている

気づいたら球審や1塁塁審は1年生が務めている、もうめちゃくちゃである

「あ、そういえば誰だったの?」
今更ながら祐里が竜也に訊くと、忘れてたという感じで竜也は持っていたボールを見せている

「昨日の牛丼の子。わざわざ届けてくれたんだよ」
竜也が感嘆していると、いつの間にか後ろには渡島監督と安理の姿があった

「なんだいこのボールは。ずいぶん汚れてるね」
余計な一言を忘れない安理には返事をせず、竜也は渡島監督に“事情”を説明している

「見た感じは本物だな。証拠はあるのか?」
訊かれ、竜也は即座にスマホの画像を見せようとして、間違えて梨華との2ショを示してしまう

「うん、これは本物だな。進藤、可哀想だがそういうことだ」
ニヤリと笑みを浮かべた渡島は、祐里の右肩をポンポンと叩くと去ろうとしているので、竜也は慌てて札幌ドームの画像を改めて示している

「なるほど。部室に飾ろうじゃないか。西陵野球部甲子園初出場を決めたホームランのボールとしてな」

渡島はボールを受け取ると、そのまま部室へ向かうのかグラウンドを後にしている。ちゃんと試合成立させるんだぞと一言を添えてのログアウト
4回裏の攻撃も0で終わり、何事もなかったように安理が守備に就こうとしているので、奈乃香がスリッパで頭を叩くと同時、青井が伝票を貼って1塁ベンチへ宅配されていった

「しかし打てんな。どうするよ」
5回の攻撃も無得点で終わり、竜也が思わず愚痴っていると青井が涼しい顔でバットを持って横に立っている
代打で行くか? と思わず竜也が呟くと、青井はそのバットを竜也に手渡そうとしているので祐里がそれを止めている

「竜は今日の試合は出られません。有料オプションになってます」
いや、普通に止めてくれと思いながら竜也は返す言葉もなく戦況を見つめる。白組3番手は1年の村島だったが、怒りまくっている闘志溢れる投球に紅組打線は沈黙していた

「西陵野球部の未来は明るいなこれ。いい投手や野手が揃ってるわ」
無駄に腕組みをして竜也が再び呟くと、奈乃香が追従して頷いている

「杉浦さん・・・消えるんですか? この試合に勝ったら・・・消えるんですか?」

いや、死亡フラグ立ててねえし。国体終わったら野球部から消えるしと内心では突っ込んでいるが、面倒なので口には出していない

「須磨があと1イニング行くんだよね。7回は大和田?」
祐里に訊かれ、竜也は小さく頷いて同意を示している。これまた強面のスーパー1年生大和田をしっかり確保していた紅組

「最強だしな。点さえ取ればうちの勝ちだろ」

6回の攻防もお互い無得点、激しい塩試合の様相を呈している

「しょっぱい試合ですいません!」
叫びつつ、勝手に安理がバットを持って打席に向かっていたが、浩臣は止めもせずそのまま向かわせている

“打てなきゃ国体にも連れて行かないぞ”
渡島からの温かい肉声メッセージがグラウンドへ響く中、安理は大和田のストレートをしっかり叩くと一二塁間を破る痛烈なヒット
浩臣が代走として俊足の1年生を送るが、引っ込みたくない安理は塁上で屈伸運動をしている

浩臣は下がれ! 代走!と声をかけているが、それは安理には届いていないようで走る気満々の様子

「あれは警察がいないと無理ですね、私呼んできます」
青井が無表情のまま本気で電話をかけようとした瞬間、渡島監督から再びのメッセージが届いている

『国体までその元気を取っておけ』

それで満足したのか、安理は素直に従ってベンチへ戻っていく。そのままお疲れと浩臣に促され、再びダッグアウト裏に下げられて再度カギを掛け直されていたが
しっかりと送り1死2塁の先制点のチャンスが生まれると、白組ベンチが動きを見せる

『代打オレ』

浩臣がバットを持って打席に向かっていた。いや、走れない上に右足負傷中だろという竜也のツッコミ

「軸足じゃないしな。ちょっくらホームラン打ってくれば歩いて帰ってこれるやろ」
甲子園での竜也を引用してみせるので、竜也も即座に動き返している

“申告敬遠”

球審にそう告げると、浩臣は知ってたと言ってニヤリと笑い返していた