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その後満塁となり、併殺崩れの間に白組が先制している。塩すぎる展開にさらに激塩が塗られた感じ
7回裏、最終回のマウンドには浩臣...ではなく、1年生の小田島が上がっている
小柄だが人生経験3周目くらいの落ち着きをみせる風格すら感じさせるマウンド捌きに、渡島も期待しているという噂

「先頭出てね。まずはそこから」
奈乃香がそう声をかけると、先頭の中島はしぶとくセンター前に落としてみせる

ナイバッチの声が届くと、1塁上で中島はこぶしを回すパフォーマンス
ただ足がどう見ても速くは見えないし、実際遅いわけで竜也が思案していると、盛り上がってるなと声が後ろからかかったので振り返る

「って本郷か。どうしたんよ」
真っ黒に日焼けしたサッカー部の正ゴールキーパーが立っていた。クラスメイトなのでそれなりに気心は知れている、松山に負けず劣らずキャプテンシーと熱いハートを持ち合わせている男

「いや、練習終わってな。帰るかと思ったら紅白戦やってるからさ、ちょっと見学」
爽やかにそう話している本郷を見て、竜也は閃いたので一人で頷いていると祐里は察したのかマイクを握っている

『1塁ランナー中島に代わりまして本郷』

は? という感じで唖然とする本郷に、青井は真顔のまま走塁用グラブを進呈している。いや、俺ルール知らんぞと素で返す本郷に対し、リードしなくていいから、ダイヤモンド駆けてくるだけでいいぞと激しい無茶振りで試合への強制参加が決定

その後バントで送った後の1死2塁、野球初心者とは思えない本郷の好スタートで紅組ベンチが沸くと、またしても来訪客があった

「何で本郷が試合出てるんだ?」
松山が現れた。どうする? というコマンドが出ていたかのように、今度は奈乃香が手袋とバットを持って松山に手渡している

『ピンチヒッター松山』

またも既成事実が作られていて、俺足首怪我してるんだがと言いながら松山は打席に向かわされている
見るからに初心者にしか見えない空振り3つでベンチに項垂れて戻ってくると、青井から失望しました。野球部のマネージャーになりますと暖かいメッセージが送られている

「いや、お前もともと野球部のマネージャーだろ、そもそも遺藍の生徒を案内したの俺だぞ...」
松山がそう愚痴っているが、あと一人で負けという展開になってしまう

「...先輩、ここは行くしかないですよ」
「竜、男になってきなさい」

奈乃香と祐里が呟いていると同時、腰の状態が全然よくなっていない竜也に対して、青井が再びバットを持ってきている
あと一人塁に出れば竜路に回せるが、制球のいい小田島からホア選ぶのはいろいろきついなと逡巡している竜也だったが、浩臣はニヤリと笑って頷いて一塁ベースを指差している

“申告敬遠”するから代打オレで来い、と

りょ、という感じで代打オレからの、代走ビッグブラウン賢人を指名
俺怪我してるんですけど...と渋る賢人だったが、リードはしなくていいし絶対手からのスライディングするな。お前も試合出たいんだろ? と竜也が呼びかけると、賢人は当たり前ですと力強く頷いて塁審を放棄し、1塁へ向かっている

代わりの3塁塁審には安理が囚われの宇宙人のように連れてこられ配置されて試合再開
リュウロ、試合決めてこいと祐里は激しく竜路の右肩を叩いて激励

「繋いできます。次の大和田に出せる代打残ってます?」
言って打席に向かいかける竜路に対し、竜也はちょい待てと言って呼び止めると、ひそひそ話で、真剣にとんでもない指示を送る

「でかいのを頼む」
「はい?」
「そうだな、遺藍まで届くどでかいのを頼む」

隣町じゃ済まない距離...ホームランどころではなく、場外ホームランを指示する竜也に対し、竜路は一瞬目を丸くしているが、竜也に2塁ランナーを指差されて状況を理解したようだった
『普通のヒットでホーム挟殺にでもなったら大変なことになる』

いや、それならそもそも本郷さん使わないでくださいよと内心竜路は思ったが、竜也の顔は真剣そのもの。お前なら打てるぞという信頼のもと、サムズアップポーズをしてベンチへ下がっているのだからもうタチが悪い

竜也がベンチに戻ると、奈乃香がすぐに声をかけて来た
「狙い球を指示したんです?」

訊かれ、竜也は笑みを浮かべて首を振ってそれを否定してみせる

「柵越えを命じた」

竜也がそう話すと一瞬ベンチはみな硬直したが、すぐに祐里のあははという笑い声が響き渡った
「あんたくらいだよ。そんな指示出すのは」

この場面だぜ? 当然だろと竜也は再び腕組みをして戦況に目を戻す

初球力み過ぎからの空振り、2球目は捕らえた感満載の三塁線への鋭いファールで早くも追い込まれていたが、投げる小田島のほうがいっぱいいっぱいに見えている
竜路で『サヨナラ』をする予定ではあったが、次の代打誰にするかと思案して一瞬目を離したその瞬間だった

カキン!
会心の打球音が響き渡る

「行った」
竜也が打球の方向へ慌てて視線を向けると、竜路がドヤ顔で自分たちへ指を指している姿が目に映っていた

ホームベース上で竜路は揉みくちゃにされている
腰に不安を抱えているので竜也は輪には加わらなかったが竜路は激しい祝福責め、その横ではひっそりと、安理にトーチャーツール、プッシュアップバー、スポイラーズチョーカー、ギターショット、ケイン、鉄パイプ、ウイスキーミスト、松葉杖による殴打、パイプ椅子ホームランの洗礼で可愛がられたあと、テーブルに乗せられて超ベリーグッドファレくんによるテーブルクラッシュ、最後の締めはもちろん“正義の手刀”パイプカットをプレゼントされ、紅組の勝利で幕を閉じている


「すごかったね」
祐里は帰宅時にそう話しかけると、竜也は小さく頷いて同意を示している

「もう俺野球部に必要ないんじゃないか。十分選手揃ってるわ」
その呟きを受け、祐里はまた始まったと呟き返している

「あのさ、あんたまだ燃え尽きてないんでしょ? 松山がさっき言ってたよ」
言って、サッカー部に入れと続けてたさと笑っていたが、また余計なこと言いやがってと竜也は苦笑している

「そうそう、さっき美緒にLINEしといたよ。紅組勝ったよって」
それを聞いて、竜也はしまったという表情。美緒に禁じ手と言われた、『代打オレ』をやってしまったという思い

「代打オレを両チームやって、どっちも申告敬遠だったって送ったら、美緒が“あとで竜也に連絡しなくちゃ”って言ってたよ。よかったね」
祐里に言われ、竜也はぞーっとしている。嫌な予感がしねーと