通話後すぐに画像を送った竜也に対し、光からすぐに返信がある
『確かに美人さんだね。しかも...どこかで会ったことある気がする』
別の遠い時空で親友だったかも知れないねとまで追記してあった。現実主義者の光らしからぬ発言で、さらに自分や祐里と同じことを考えているのに不思議な感覚を覚えていた(美緒からは一切その反応はなかったので。美人だねとは言っていたけれど)
とはいえ、もう梨華と話すことはないだろうなと竜也は感じていた
ボールを受け取ってしまったので、会う理由が一切なくなっている。お嬢様学校の女生徒と、そもそも何を話せばいいのという思い
まあそれを言ったら、“上級”の美緒や光に連絡出来ている時点で変な話なのかも知れないけれども
そう考えると、俺は幸せ者なのかもなどと物思いに耽っていると、スマホに再び着信がある
「光ちゃんと無事に連絡できたみたいだね」
美緒からだった。1日に2回もかけてくるなんて珍しいなと、思わず竜也が漏らすとスマホの向こうで美緒がほほ笑んでいる
「さっきは短かったからね。ホントは私ももう少しキミと話をしたかったんだよ」
冗談なのか本気なのかわからないが、美緒はとても嬉しいことを言ってくれている。お世辞でも悪い気はしないそれに、竜也も思わず笑みが漏れている
「どうせだし、ビデオ通話でもする?」
美緒の申し出は、風呂上がりでもうパジャマを着てるという理由で辞退するが、またそれがお気に召さなかったようでやっぱり杉浦竜也は絶版だねと口ずさんでいる
いや、俺の顔なんてみてもしょうがないだろと素で返すと、美緒はふふといつもの笑い声
「そうそう、さっき母さんに言われたよ。ずいぶん楽しそうだね、って」
美緒は電話の話し声が部屋から漏れていたせいだと愚痴っている。キミがくだらない話ばかりするせいだと文句を言っているが、けどそんなキミと話をしたくなる私は病気なのかなと自嘲している
「ハンサムが 如何なるものかと 人問はば 我が名をあげよ 杉浦竜也」
竜也が“辞世の句”を噛ましてみせると、また美緒はスマホの向こうで噎せる。ホント、キミはひどい奴だねと言ってゲラ笑いを発動させてしまっている
「まあキミはイケメンでもハンサムでもないと思うけど」
唐突に切り捨てられるが、それは自分でも竜也が自覚していることなので気に留めることはない。むしろ乗ってこられたら困るレベル
とはいえ、美緒がゲラということが分かったので、今がチャンスとばかりに畳みかけることにした
「千葉安理が変態玉子に変体するタイムはわずか0.05秒に過ぎない。では変体プロセスをもう一度見てみよう」
ギャバンをもじって弄りると、美緒がせき込み始めたのでさらに追い打ちをかける
「お父さん、ミックスセールの日にち、僕空いてます。ぜひ一緒に参加させてください。あ、来年のセレクトセールでも大丈夫です」
今実家で過ごしていることを知ったうえで、馬主への憧れを思わず口走ってしまう嫌がらせ
美緒はすっかり笑いが止まらなくなったようで、激しくせき込み始めたので父親の“美緒大丈夫か”というダンディーな声まで聞こえてきている
ややしばらく間が空いた。竜也が美緒の返事を待っていると、あぁ、もう嫌だという美緒のつぶやきが聞こえてくる
「ホント酷い目に遭った。何で父さんにまで呼び掛けてるんだキミは」
いや、馬主はやっぱり諦めきれんてと竜也が茶化すと、“高卒”じゃうちの関連企業全部落とされるよと小声で囁いている
「マジかよ。大学なんていかず、美緒のコネクション使って馬主になるって進路調査で書いちゃったのに」
言って、竜也は“就職のコネクションを ひけらかす仲間の声が♪”などと歌を口ずさんでいる
「ふふ、その冗談は置いといてだけど、キミが私に進路を教えてくれない理由が分かった気がするんだけど聞いてもらえるかな」
美緒が気を取り直したかのようにそう提案してきたので、竜也も何事もなかったように、あいよと返している
「昨日の夜、父さんが言ってたんだけどね。美緒の彼氏、プロ野球の選手になるんだろ? って。だから美緒に大学の話をしないんじゃないかって」
どこから突っ込んでいいのかわからない話だった。楽しそうに話す美緒に対し、竜也はおいおい、待て待てとただつっこむだけだったが、そもそも俺が高校で野球やめるって話してただろと改めて伝えると、美緒はふふと笑ってまた続けている
「うん、それも教えてたんだけどね。父さんが言うには、“遊びでする野球”をやめて、これからは仕事で野球をするんだろうって。そうだったの?」
くだけた口調でとんでもないことを聞かれ、竜也はねーよとマジレスをしてしまっているが、それを受けて美緒はだよねと呟いて笑っている
「俺はさ、今のレベルだから打ててるだけ。身体能力もないし、高いレベルで野球続けていけるほど優れた選手じゃないからな。打ててるのはただの偶然、だから大学へ行ったとしても野球を続ける気すらないわ」
竜也の“自己分析”を聞いて、美緒はふーんと感心した様子だったが、すぐに“祐里がいないとキミは逃げるだけ”だからねと、いつぞやのプログラムを持ち出して責めてくる
「切るぞ」
業を煮やしたのか竜也が珍しく強く出ると、美緒はふふとまた笑い声を響かせている
「まあ“彼氏”の時点で間違えてるよね」
美緒が言ったので、竜也はあぁと即答。初恋の人ではありますが、そもそも住む世界が違う人ですし
「何で私が竜也を彼氏にしなきゃいけないんだって話だよね。こう見えても私はモテるんだよ? 私は優秀な人が好きだしね」
まさかの超反撃が返ってきた。静かに淡々と言われるとこれはきつい。“優秀”とは程遠いと自負があるだけに、竜也にはこれは堪えている
項垂れて言葉が出なくなった竜也に対し、しばし待ったあとに美緒は言いすぎちゃったかな? と小さく囁いている
「このまま通話切られたら松村の二の舞だったわ」
竜也がぼそっと言うと、私もブロックしちゃうんだ。キミはひどいなと泣き崩れているマネをしてみせる
「キミには牛丼の子もいるし、祐里もいるしね。傍にいない私なんてどうでもいいんだね」
この浮気者!だの、清田!だの酷い言われようだったが、全くそんなつもりはないわけで。何言ってるんだかワカリマセーン(原田芳雄ism)
「けど不思議だよな。つい昨日まで1週間以上連絡すらしたくないくらい凹んでたのは事実だからさ」
言って、竜也が“眠れぬ夜空に 耐えきれぬほどの苛立ちばかりが 胸に蘇る”と、先日『美緒に送った』曲のアルバムバージョンを披露していると、歌詞が違うよと美緒がツッコミを入れてきた
「そうだ思い出した。頼んでたギター、必要なくなったわ。言うの忘れてた」
いつぞやの、“間奏”で光に投げさせるためのギターを美緒にお願いした件を持ち出すと、だったねと美緒もすぐに同意を示している
「光ちゃんフランスだし、私が千葉だからね。バンドどころじゃないよね」
美緒にそう言われると、祐里と旨いもの巡りでもするわと竜也が返す。ふーんという感じで美緒が流すかと思いきや、声のトーンが一気に下がっている
「私の前でよくそんなこと言えるね。“美緒ちゃんのことが大好きです”って手紙をくれた人はどこに行っちゃったのかな」
昔の話を持ち出して、美緒はおいおいと泣き崩れた(ふりをしている)。わざとらしいくらいに大きな声を出して泣真似をしているので、竜也は再び「切るわ」の洗礼
「いいんだ、竜也よりイケメンを見つけて馬主にしてやるから。後悔しないでね」
美緒が不敵な口調でそう言い放ってきたので、竜也は静かに見えてもいないのに頷くと追撃の一句を進呈した
『イケメンが 如何なるものかと 人問はば 我が名をあげよ 杉浦竜也』
まさかの別バージョンでの切り返しに、美緒は再びゲラを発動する羽目になっていた