美緒との通話を終え、何気にスマホを見るとLINEに夥しいほどのメッセージが届いている
何事? と竜也が見てみると、祐里から大量に送られていたそれ
「いつまで電話してるんだよ」
「長いよ」
などと、短文でのメッセージが大量に
おー怖と思いつつ、すべて未読でスルーを決め込むことに
さて、玉子から借りた“下級生”でもやるかとPCに向かうと、再びスマホにメッセージが届いている
『竜よ、なぜ君は悪魔に魂を売ったのか』
なんだよこれと思わず吹き出していると、再びのメッセージ
『明日朝迎えに行くから。あんた腰悪いんだから、お父さんが車で乗せてってくれるってさ。それ言いたかっただけなんだけど』
車かぁ。まあ祐里の父の車は“背が高い”から座っても大丈夫かなと思い、素直に『サンキューな(真壁刀義ism)』と返信すると、短すぎると抗議のメッセージが再び届いていたが、またもそれはスルーして竜也は下級生を始めていた
1週間が経過したとある日の休み時間。ようやく腰の違和感は癒えた。大会まであと2週間、何とか間に合うかという感じで竜也が安堵しているが、浩臣はどうも微妙らしい
「ギリギリだなこれ。投げられても決勝戦にしか間に合わねえかも」
言いつつ、監督には頼み込むつもりだがと続けている。そろそろメンバーを決める頃だよなあという思い、間に合った感満載の俺と、投げられても決勝戦だけの浩臣
この2人を帯同させてくれるのだろうか
甲子園はベンチ枠が20だったが、国体のベンチ枠は18に減る
新チームがすでに動き出していて、受験勉強に集中したいという3年生部員もいるという兼ね合い
渡島監督大変そうだなと、竜也は授業中に他人事のように考えている。受験関係なく、万田と那間が地下のライブはあるからその日程は無理なんだよなとか体育の時間で話していたのは笑えた記憶
そっか、新チーム動いてるから竜路ともプレイ出来ないんだなと竜也は気づいてしまった
どう考えても新チームのレギュラー格だろうしね。岡田なんて主将だから確実に新チーム優先だろうな
相変わらず進路を考えてる気配すらなく、授業にも身が入っていない様子の竜也
ノートに勝手に選び始めてしまうから、もう重症である
『伊藤、久友、須磨、高井、千原、近藤、樋口、杉浦、草薙、和屋、千葉、大杉、天満、御部、冬井』
参加辞退組を考慮すると、まずはこの15人で残り3人
竜路、中島、小沢あたりが加われば、ガチで“優勝”あるんじゃないかという思いがある
右内が受験勉強専念で辞退、長いイニングを投げられるのが久友しかいない状況。成田は新チームのエースなので招集が無理とすると、小沢は呼んでおきたいところ
岡田は新チーム、万田、那間と控え内野手が地下のため欠席となると、内野が明らかに手薄になるので竜路と中島を呼びたいが、新チームのセカンドとショートの最有力だろうから難しいか
病み上がりの俺が今まで通り打てるかもわからんし、これマジで厳しいななどと考えていると授業終了のチャイムが鳴る
あ、やべえ。全然ノート取ってねえ、あとで光か美緒に借りるかと思ってしまいすぐに自嘲する。二人共いませんでした!
昼食の時間
祐里は弁当を広げて女子のクラスメイトと食事をしようとしている(竜也が食堂ということを知っているので)中、さて食堂でも行きますかと竜也は歩を向ける
「杉浦ちゃんも学食か。なら一緒にどうよ?」
珍しく同伴のオハーが高井孝之からあったので、竜也は承諾している。さすがに一人だときついんで助かりました
二人とも“日替わり”のカツカレー、混みまくっている食堂の席を無事見つけ着席している
「で、杉浦ちゃんは国体出られそう?」
孝之にそう訊かれ、竜也は小さく頷いている。腰は治ったぞと続けると、孝之は意味深な笑みを浮かべている
「玉子ちゃん悲しむわそれ。セカンドは俺だーって威張り散らしてたから」
竜也故障、万田、那間は地下活動、竜路は新チーム(と思われる)。千葉安理こと変態玉子しかセカンドを任せられる選手がいない緊急事態であった
「とはいえ俺ずっとバッティングも守備練もしてないけどな。ウェイトとかはやってたけどさ」
腰の爆弾を打ち消すため、大嫌いな腹筋をこなして筋肉をつけてカバーする方法を採用してギリ間に合わせた感
実戦練習などもってのほかで、どうなるんでしょう状態
「とりあえず今日部に顔出してみるわ。監督と話してくるよ」
新チームとは別に、3年で国体出場希望者だけ部に顔を出しているのが現状。相変わらず冬井さんは愚直に出続けていると孝之が告げている
「見つけたぞ、杉浦。お前、遺藍の彼女といちゃつくために文化祭出ないらしいな!」
唐突に現れた小沢がそう話しかけてきたが、面倒になった竜也はサムズアップポーズで迎撃している。何だったら一緒に食うか? と空いている席を指差す余裕すら見せて
「すいません、お邪魔します」
なぜか殊勝な様子で素直に従う小沢。どうやら空席がなくて困っていただけの様子
「何だ、杉浦ちゃん文化祭出ないのか。ギターの代わりなら見つけてたじゃん」
早くもカツカレーを食べ終え、持参していたサンドイッチに手を伸ばしつつ孝之が話している。いや、誰のことだよと竜也が逡巡していると、同じくカツカレーを食べ始めている小沢が追随している
「青井妃那。進藤祐里さんだけじゃ飽き足らず、1年のジャーマネにまで手を伸ばすとは杉浦最低だな。絶対に村山は渡さんからな」
あぁ、青井か。確かにギターが得意という話は祐里から聞いてたと思いつつ、会話がろくに成立してなかった記憶も蘇っている。なんかいろいろミステリアスだからな
「つか、もうエントリー期限終わってるやん。国体終わってすぐ文化祭だしな」
そう、仮に青井がギターで参加してくれるとしても、セッションして合わせている時間はないわけで
「そいや小沢は新チームと国体どっち選ぶん?」
唐突に竜也が振ると、小沢は困惑した表情。いや、俺1年ですしと急にしどろもどろ
「右内ちゃん出ないし、孝之や須磨は長いイニング無理なんよ。だから投手足りてないんだよな」
まるで監督のように竜也が語っていると、孝之は何で俺長いイニング無理な扱いと訊いてくるが、ノーコンだからと竜也に即答されて激しく咳き込んでいる
「成田は新チームだろうし、小沢なら選んでくれれば国体で行けると思うんだが」
決して選出権限があるわけじゃない竜也のこの発言が、どうやら小沢には刺さったらしい。俺やりますよと不敵な笑みを浮かべている
「カステラ持って監督に挨拶してきます。国体に選んでくださいって」
小沢が大真面目にそう話すので、竜也は何でカステラよと内心突っ込んでいた