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国体が始まった
2回戦からの出場となった西陵高校
チームメイトには「いつでも投げられるからな」と言っていた浩臣だが、竜也には“決勝戦の1イニングだけかも”と伝えていた
万全に万全を期して投げなければ意味がないしなと続けていて、本人の表情には一切の暗さはなかった

「“アレ”するんだから必ず投げられるわ。3者三振で締めて胴上げ投手でしょ」
病み上がり実戦出場なし、シート打撃で全打席凡退しているのに妙に余裕な口ぶりで竜也がそう返していた


初戦、観衆はまばら。ブラスバンドの応援はもちろんなし、“突撃コール”も当然なし
1か月以上実戦から遠ざかっている竜也だったが、『1番ショート』でのスタメンに応え1回表の打席で何事もなかったようにヒットで出塁してみせている

「やるじゃねえか」
塁上で、竜也は1塁コーチの御部からお褒めの言葉と走塁用手袋を受け取る
この一打で試合の流れを完全に西陵に持っていった


打線が繋がり5回までに8点リードをする余裕の展開
先発に抜擢された小沢も変幻自在の投球で相手打線を翻弄している

「せっかく相手のネタいろいろ仕入れたのに、使えなくてつまんねー」
ベンチで小沢がぼやいているが、そもそも公式戦でそれやると出場停止か失格になるんじゃねと竜也は内心感じていた


§


「思った以上ですね。杉浦さん凄いわ」
竜路から報告を受け、だろ? とニヤリ笑う渡島だった

守備のポジション取りが細かいだけじゃなく、内野陣や外野陣にまで守備位置の指示を出していることに驚いている
最初に大まかに千原が指示を出すが、その後の細かい各選手ごとのシフトは竜也がとにかく口うるさいくらいに動かしている
さらに投球のたびに自身は必要以上に動いて守備位置を変えているのをセンターから見ていて、竜路は渡島の真意を悟った

来年から俺にこれをやれってことですね、監督と


§


7回の守備から竜也はお役御免という感じで下がり、竜路がショートに回り安理がセンターへ入る布陣になっている
慣れないながら守備位置の指示を出している竜路を見て、ベンチで竜也はニヤリと笑っている。リュウロ、やるなと

「珍しいね、あんたが途中交代で笑顔見せるなんてさ」
祐里に揶揄されるが、実際足首がまた怪しい気配を示しているとは言えないので竜也はすっとぼけることを選択

「いや、実践久々だからさ。すげー疲れたなって」
4打席2打数2安打2四球。病み上がりとは思えない変態的打撃力は健在、ショートの守備も無難にこなしての交代なので、故障を抱えているとは誰も思わない状況

「まあ不貞腐れてるよりはいいよ。チームの空気悪くなるしさ」
言うだけ言って祐里は渡島の隣へ戻っていく。それと同時、ブルペンから浩臣がベンチへ戻ってくる。近藤は須磨ちゃんの球受けてるから戻ってこないと言いつつ、竜也の隣に腰を下ろしている

「須磨ちゃん一段と球速くなってるわ」
感心したように呟きつつ、浩臣は自身の脚を気にした素振り。竜也にまだ痛いん?と訊かれ、それはないけどと即答はしているが

「何かな、しっくりしなくて。どっかの誰かさんと同じだよ」
案に竜也の足首の違和感を揶揄しているが、竜也は素知らぬ顔でそれを受け流している。結果は出したんだから問題ないでしょ、的な

「打ってよし守ってよしか。あと顔さえよければスーパースターだったのにな」
浩臣が笑いながら茶化すと、竜也は真顔で頷いて同意を示している。ホントそれと

「まあいいじゃん、竜にはたくさん彼女いるんだしな」
言って、浩臣は祐里のほうを見てちらっと笑っている。祐里にその声は届いていなかったが、視線を感じたのか竜也と浩臣のほうを見て笑みを浮かべている

「そんないいもんじゃねーし。最近は美緒にも事あるごとに“絶版”にされてるしさ。光が恋しいよ」
遠い目をしてみせる竜也に対し、そういうとこだぞと浩臣が呟いている。次から次へと女子の名前挙がるじゃねえかと

主軸とエースが雑談をできるくらいの試合展開
一方的とも思える西陵ペースで進んで初戦突破は間違いない雰囲気になっているが、渡島は気を抜くなよと声をかけることを忘れていない

「次は甲子園でうちが負けたとこだしな。このままぬるい空気じゃ確かにまずいわ」
浩臣が表情を正してそう話しているが、竜也はすっかりオフモードになってしまっている

「佐々木労基出てないって言ってたよね。万田ちゃんや那間ニイみたいに地下にでも通ってるのかな」
竜也がとんでもないことを言い出したので浩臣が思わず噎せていると、いつの間にか小沢が傍に寄ってきている

「村山、好き。村山、好き、村山ちゅき、村山ちゅき」
例によって村山LOVEを隠さない小沢だったが、佐々木労基と訊いて思うところがあるようだ

「ただのさぼり病っすよ。甲子園でうちに勝った後投げてないし、去年の秋や春もひたすら痛い痛い言ってるようなやつですから」
苦虫を?み潰したような表情で小沢はそう呟くと、あー喉乾いた。パチスロ行ってきますわと言ってロッカーに下がっていった

隙あらば出場辞退に追い込もうとするメンバーだらけだわと思いつつ、ようやく戦況に視線を戻した竜也
須磨がすんなり2イニングを抑え、あとは9回のマウンドを誰に託すかという状態

「この点差でも孝之なら自作自演するんだろうな」
浩臣が笑いながら呟くと、竜也は違いないと言ってちらっと笑った