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7回裏、2死3塁の絶好機で竜也に打席が回って来た
案の定申告敬遠で歩かされ、1、3塁で本日3タコの竜路の打順

代打? と思ったのか竜路はネクストから渡島のほうを見つめると、静かに頷いているだけ。“お前に任せた”と言わんばかりに、いつもの落ち着いた表情で戦況を見つめている

竜路の脳内では、先ほどの竜也の言葉がリフレインしている
“当てに行くだけじゃつまらくね”

内角や真ん中に来たら強く叩き、外のボールは流し打ち。今までずっとこれで通してきた
それで自他共に認める高打率をマークしていたのに、なぜ今日になってこんなことを言われたのか

たまたま今日結果が出ていないだけなのになぁと思いつつ、あっという間に追い込まれてしまい結局最後は落ちるボールに空振りの三振に倒れている

思わず天を見上げる竜路に対し、やや足を引きずり気味に戻ってきた竜也は竜路の右肩をポンと叩いている

「今のでいい。強く振って三振なら全然問題ないからさ。切り替えて続けような。あとは人のいないとこか、人のたくさんいるとこに打つだけだから」

言って、竜也は心底疲れた感じでベンチに戻ると祐里からグラブを受け取ってセカンドの守備位置へ戻っている

それで竜路はようやくぴんと来た感じだった。三振を怖がるな、ということですねと。次は絶対打ちます

8回表、普段なら三振かフォアボールの孝之の投球が、今日は普通に痛打されている
置きに行っているわけでもないのに、是津サイドに捕らえられているそれ
2死満塁まで持ち込まれるが、起死回生の魔球チェンジアップ3連投で三振に凌ぎ窮地を脱したが、どうにも厳しい展開

勝ち越して浩臣投入で逃げ切りたい西陵サイドの思惑だったが、樋口にヒットが出ただけの攻撃でチェンジになってしまっている
延長タイブレークを踏まえたのか、浩臣は温存されて9回表も孝之が続投している

やや疲労がみえてきた孝之は1死後に2塁打を許し次の打者を歩かせてしまう
肩で息をしつつ、大きく天に向かって息を吐く孝之に対し内野陣が集まっている。ベンチから誰かが走って来たのが見え、伝令かなと竜也が思っているとそれは浩臣の姿だった

「お疲れ。あとは俺に任せてくれ」
よく見た光景だった。まるでデジャヴすら覚えるそれ

孝之がファーストに戻り、樋口も再びライト。9番の天満に代わって浩臣が入り投手。中島に代えて御部がセンターに入り、竜路がショートに回っている
延長タイブレーク。不測の事態を考え、投手ができる孝之も樋口も残しておく。久友が残っているとはいえ、連投になるので無理はさせられないという渡島の配慮なのだろう

投球練習が始まっているが、いつもの浩臣の唸りを上げたボールとは程遠いそれ
渡島に対し報告をしている、ブルペンで受けていた控え捕手の近藤も『あまりよくないと思います』と率直なコメントだったが、あえてこの場面で浩臣の投入を決断していた

「伊藤、キミが打たれて負けるなら誰も文句言わないだろ。打たれろ! メチャクチャやってこい!!」
言ってニヤリと笑う渡島に対し、浩臣も同じように不敵な笑みを浮かべて頷いていた

そんなやり取りを知らない上に、あまりのボールの走ってなさに思わず竜也が近寄り一言声をかけると、浩臣はニヤリと笑みを浮かべて頷いている

「そっちこそ脚大丈夫なのかよ」
あれ、バレてた? と竜也がすっとぼけていると、浩臣は思わず下を向いてくくくと笑っている

「俺を信用してないのか?」
いつも通り、自信満々の口調で浩臣がそう告げたので竜也は笑みを浮かべると右手を上げてセカンドの定位置へ戻っていく

さぁ、It's Show timeだ

またしても是津ベンチが動いている

さぁ大谷だ! と言わんばかりの大歓声とともに、大柄な左打者が代打で送られていた

『バッター溝脇くんに代わりまして、大谷くん』

取って置きの切り札が登場してきた。スイング一つの音がとんでもない音を立てていて、これじゃ当たったら場外だろと竜也が感じていると、即座に千原が審判に何事かを告げている

“申告敬遠”

あえての満塁策をチョイスすると、まばらな是津側スタンドからはブーイングが起きている

意気消沈したかにみえる是津サイドだったが、続く2番の松本は当てるのが得意な好打者。三振はとても少ない

「伊藤さん、ゲッツーで締めましょう。ショートに打たせて来い」
ようやく平常心を取り戻したのか、竜路が声掛けを行っている。当てただけの打球でも抜かれないよう、そして併殺を取らなきゃいけない場面。今の脚の状態で広く守るのは無理、打球読みで一か八かしかないかと竜也が感じていた、松本への初球だった

思わず竜也、そして西陵サイド全員が目を見開いて驚くそれ。今までに見たことのない、豪速球がど真ん中に投げ込まれている
速ぇーとどこからともなく声が漏れ、松本は手も出せずに呆然と見送っていた

この1球は大きいなと竜也が感じている、投球練習で、ボールが来てないのは相手も薄々気づいていたはず。それがいきなりのこの剛球。これは相手さん戸惑うわと思っていると、2球目のストレートを辛うじてファウルしたあとの3球目の縦のスライダーで松本はあえなく三振に倒れている

おいおい、これは行けちゃうんじゃないかなと竜也が思っていると、浩臣はドヤ顔でグローブを示している
打球は飛ばさせないからな、とでも言わんばかりに

続く3番の高橋周に対しても圧巻のピッチングだった
ストレート、スライダー、そして最後はスイーパー(初めて見たんですけど!)で2者連続3球三振という西陵の大エース此処にありを遺憾なく発揮していた

っしゃーと大きく吠え、グローブを右手で叩く浩臣に対し、西陵ベンチ、そして西陵側応援スタンドからは歓声が上がった

「サヨナラで終わるぞ。タイブレークなんていらねえわ」
浩臣がそうベンチで叫ぶと、西陵ベンチの士気は大きく上がった