ベンチ裏では渡島監督、そして主将の千原がインタビューを受けていた
お先、という感じで竜也と祐里はその場をすり抜けている。よかった、これで置いていかれる心配はないなと思い、どちらからともなく笑みを浮かべている
「あんた、脚大丈夫なの?」
一応真っすぐは歩けているが、とても歩が重いのを察した祐里がそう声をかけると、竜也は小さく頷いてみせる
「痛いのは痛いけど、別にもげるわけじゃねえからな」
前向きなのか後ろ向きなのかわからない発言を受け、さすがに祐里は笑い飛ばせずに困惑した様子
その後沈黙したまま二人は球場の外に出ると、例によって浩臣は女性ファンに囲まれていて、樋口は男性ハァンに揉みくちゃにされている
「ヒグっちゃん、今日は乗り遅れるなよ」
祐里がそう声をかけると、またしてもヒグチハァンから大ブーイングを受けている。あーこわと竜也から笑みが漏れ、祐里は内心一安心
伊藤くんお先、と声を掛けつつ竜也は周囲を見渡しているが、美緒の姿は見当たらない
「美緒いないな」
竜也がそう呟くと、祐里はおもむろにスカートのポケットからスマホを取り出している
「って一言だけ? どうしちゃったんだろ」
美緒からLINEに着信あったよと言いかけ、思わず違うセリフを吐き出している。そしてその画面をそのまま竜也に見せた
“おめでとう”
それで竜也も移動中にバッグからポケットに移していたスマホを取り出して確認すると、全く同じ5文字だけのメッセージ
「ホテル帰ったら通話してみるか。急な用事でもあったんかな」
呟きつつ、あとで電話するわとメッセージを返信している
「そうだ。光にも教えないとね」
祐里はそう話したので、竜也は頷いている。勝ったぞ、優勝したぜと自信もメッセージを送信
「ってしくったな。15時半だから、まだ7時半か。寝てる時間だったかも」
竜也が揶揄すると、祐里はあははと笑みを浮かべている
「私なら絶対寝てる時間だよ。そんな時間にLINE送られたら絶版にしてやるわ」
帰りのバス、いつものように竜也の横には浩臣が座っている。祐里は渡島監督の横で、杉浦じゃなくてごめんなと揶揄され笑みを浮かべていた
「進藤とイチャイチャ出来なくてごめんな」
こっちはこっちで浩臣に茶化されているが、竜也は俺たちモストデンジャラスコンビとすっとぼけている始末。どちらの脚もデンジャラスって意味なと続けたので、前方に位置取っている小沢と中島がそれぞれ噴き出している。例によって、クールだぜという声も届いてきた
和やかな空気のままバスは進んでいる
竜也は浩臣と適当な会話をしつつ、スマホを弄っているが何度見てもさっき送ったメッセージが既読にならないので困惑している
表情には億尾も出していなかったので浩臣は気づいていない様子だったが、やがて祐里からメッセージが届いている
「全然返信来ないし未読なんだけど。なんか悪いことしたかな」
祐里が余計なことを言うとは思えないし、俺自身も何も覚えはないわけで。まじでわけわからんと思いつつ、まさか青井が変なこと吹き込んだ? と一瞬考えたが、あまりの邪推だわそれとすぐに自虐
そんな時、竜也の電話に着信があったので間髪入れずに通話を押している
「もしもし?」
そもそも誰からかかって来たかも見ずに出たそれだったが、すぐに呼応があった
“杉浦くんの携帯だね? 私はソフトバンクホークスのスカウ”
まで聞こえた瞬間、竜也は躊躇なく通話を打ち切っている。浩臣から誰から? と訊かれ、間違い電話だったわと即答してげんなりした表情。返す刀で先ほどの番号を迷惑電話登録しつつ、スマホをポケットに仕舞い込んでいる
「そいやさっき巨人のスカウトから声かけられたわ」
浩臣がさらっととんでもないことを口走っているが、竜也は特に興味を示さずそうなんだと冷たい返事。それで浩臣は思わずくくくと笑っている
「ホントお前他人に興味ないよな。まあ俺も大学行くんでと断ったんだけど」
その会話を聞いていた後部座席にいた竜路が思わず身を乗り出し、凄いですよ伊藤さんとおべんちゃら
「俺なんて声かけてくれたの年配のおばあちゃんだけでしたよ。うちの孫見てるようで可愛かったねえって」
すると、今度は前方の小沢が急に振り返ってくる
「どうでもいいっすけど、村山からまだ返事来ないんですよ。それどころか未読のまんま」
いや、そんなこと俺に言われてもと竜也が返事に困っていると、笑みを浮かべたまま浩臣が容赦なく一閃している
「小沢、お前ブロックされてるんじゃないのか?」
今日投げたストレートより見事な直球をまともにくらい小沢は轟沈している。それどころか、その会話が聞こえていた祐里からも容赦ない声が飛んでくる
「村山にさっき優勝したよって送ったら、すぐに返事来たよ。Youtubeで中継あるから見てましたって」
どんどん既成事実のように外堀を埋められていった小沢だったが、目の怪しい色は褪せていなかった
「ツンデレで困るわ。あとで土産選ばんと」
頼むからストーカー行為だけは避けてくれと願う竜也だった
「杉浦竜也、あんたからも村山にLINE送ってみてくれ。それが既読になるんだったら俺諦めますわ」
小沢がそう呟くと、竜也は無表情のままサムズアップポーズでそれに呼応している
「いや、俺連絡先知らんし」
ズコーっという感じで、小沢は何事もなかったように前に向き直っている。早く函館帰ってパチスロ行きてぇーと呟いて、すぐに中島に小突かれている
「あ、竜は村山の連絡先知らないんだな。俺は知ってるけど」
浩臣は竜也の耳元でそう囁くと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた